2019 Fiscal Year Annual Research Report
Ensuring the reliability of spectroscopy for rapid and nondestructive assessment: an approach from NMR metabolomics
Project/Area Number |
18H02161
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
池羽田 晶文 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 食品研究部門, ユニット長 (40342745)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
関山 恭代 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 食品研究部門, 上級研究員 (60342804)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | メタボローム解析 / 量子化学計算 / 近赤外分光法 / リアルタイム計測 / NMR |
Outline of Annual Research Achievements |
食品や農産物の非破壊迅速評価法として知られる近赤外分光法は,PLS回帰などの機械的学習手法の助けもあり,生産現場に広く普及している.しかし,それらは定量原理が不明なまま使い続けられているため,有害物質の検出や医療応用など,高い信頼性が求められる分野への進展が滞っている.したがって,非破壊・迅速分光分析の信頼性担保のため,検量モデルが成立するメカニズムの理解が急務である.本研究では,その理解を困難にしてきた理由は対象が生物由来,すなわち複雑な代謝混合物であるためと考え,網羅的代謝解析を活用することでこれを解明する.具体的には主にNMR法を用いたメタボローム解析と量子化学計算によって,非破壊・迅速分光分析されるシグナルがどの代謝物(群)に由来するかを紐解く.したがって本研究の内容は,近赤外分光法等の非破壊・迅速分光分析法を単なるポストハーベスト評価技術に留めず,メタボロミクスのためのリアルタイム計測手法に昇格するための基礎研究である.具体的には以下の5つの課題:①果実の非破壊糖度選別の原理解明,②穀類の主成分および灰分の推定原理解明,③非侵襲血糖値推定の原理解明,④モデル系でのリアルタイム計測実験,⑤紫外吸収分光・蛍光分光への適用,を設定する. H31(R01)年度は①の課題について,リンゴや桃の近赤外分光法による非破壊糖度選別のメカニズムについて,同測定部位の果汁の1H NMRスペクトルとの比較解析を深化した.本件については国際会議(NIR2019)で口頭発表を行い,高い評価を得た.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は①果実の非破壊糖度選別の原理解明研究のアウトリーチ,これに関連しての量子化学計算基盤の整備,④モデル系でのリアルタイム計測実験機材の整備を行った.前年度,既知の果実糖度の検量モデル(可視-短波長近赤外領域)における有効波長と関連する代謝成分はリンゴや桃などの品目で異なることを明らかにした.しかし果実の可視-近赤外スペクトルと1H NMRスペクトルとの異種相関解析(Statistical Heterospectroscopy (SHY))による単純比較では,Brix糖度へのPLS回帰によって選ばれる波長と偶然一致しただけの可能性がある.そこで1H NMRスペクトルから各代謝物の半定量値を求め,これらを目的変数として可視-近赤外スペクトルから網羅解に回帰モデルを構築・比較する方法などを考案した.結論は昨年度と変わらず,多くの単糖が単一の近赤外波長と相関する,縮退のような結果となったが,糖代謝経路についてやや理解を深めることができた.以上について2019年9月にオーストラリアで開催された近赤外国際会議NIR2019の代謝関係セッションで口頭発表を行い,非常に高い評価を得た.また,量子化学計算に関しては専用の計算機と振動の非調和性を考慮できるソフトウェアを整備し,近赤外スペクトルである倍音のシミュレーションに着手した.④モデル系実験については,自動インジェクションと温調フローセルを具備した透過反射光学系を構築した.
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Strategy for Future Research Activity |
①果実の非破壊糖度選別の原理解明に関しては,1H NMRスペクトルとの比較により有効波長との関連物質がより明確となったが,一部の品目ではサンプル数が少ないため本年度も実験データを蓄積する.また,リンゴなどでは依然として種々の単糖が単一の波長に縮退する現象がみられる.この原因の解明にはモデル物質系での再現実験や,量子化学計算によるスペクトルシミュレーションが必要である.量子化学計算の手法,特に二次の振動摂動理論(GVPT2)については連携研究者から指導を受ける予定だったが,新型コロナウイルスの影響から渡欧できず,十分な議論ができなかった.このため今後はリモートでの議論を進めることで調整する.今年度の研究の中心は④モデル系でのリアルタイム計測実験,即ち,酵母分散液の糖代謝のリアルタイムモニタリングに移行する.紫外-可視分光器と近赤外分光器の結合系に上記フローセルシステムを備えたシステムによって一定時間スペクトルを計測し続ける.1H NMRについても一定温度での連続スペクトル計測が可能であり,同時計測ではないが,同一条件でのデータ比較が可能となる.データ解析には反応論を組み入れる必要があるため,システムバイオロジーに関する情報収集を行う.②穀類の主成分および灰分の推定原理解明について国産のコメを試料とし,長波長近赤外帯域(1700-2500 nm)を用いた灰分の検量モデル構造を理解する.
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