2019 Fiscal Year Annual Research Report
植物の環境ストレス応答における生体膜マイクロドメインの構築と機能
Project/Area Number |
18H02165
|
Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
川合 真紀 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (10332595)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | マイクロドメイン / スフィンゴ脂質 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞膜は、植物細胞が外界からのシグナルを受容し、細胞内の応答を誘引する初動の場である。脂質二重膜で構成される細胞膜上には受容体、キナーゼ、イオンチャンネル等、様々なタンパク質が存在するが、それらは膜上に均一に配置されているのではなく、スフィンゴ脂質とステロールを主要構成成分とする脂質ラフトと呼ばれるマイクロドメインに局在し、シグナル伝達の場を構成していると考えられている。本研究では、植物の環境応答において、細胞膜マイクロドメインが果たす機能を解明することを目的としている。これまでに、高発現すると酸化ストレスに対する耐性を付与する小胞体膜局在性の因子(BI-1)と物理的、機能的に相互作用する因子の解明を進める中から、スフィンゴ脂質の代謝系が植物の環境応答機構に大きく関与することが示された。特に、スフィンゴ脂質不飽和化酵素であるSLDについては、高発現と発現抑制系統をイネとシロイヌナズナで作成し、アルミニウム応答性とスフィンゴ脂質を構成するLCBΔ8位の不飽和化との関係性を解明した。さらに、シロイヌナズナのセラミド骨格には脂肪酸n-9位不飽和結合も存在する。これはADS2 (acyl-lipid desaturase 2) という酵素により不飽化されることから、SLDとADSの2種類のスフィンゴ脂質不飽化酵素が欠損した二重変異体の表現型を調べた。その結果、SLD1とADS2はどちらも低温ストレス下において低温応答性のHY5遺伝子の発現を介してアントシアニン蓄積による防御に貢献していることがわかった。さらにsld1ads2が相乗的な表現型を示したことから、これら2つの酵素が導入するセラミド不飽和結合は同様の機能メカニズムを介して、互いに相補的に低温耐性の向上に寄与していると考えられた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに、スフィンゴ脂質代謝系のうち脂肪酸伸長に関わるELOとBI-1との関係性については既に論文発表済みとなっており、これに引き続いて今年度は、スフィンゴ脂質のLCBΔ8位の不飽和化に関与するSLDのアルミニウム耐性に関する論文を発表することができた。スフィンゴ脂質を構成するセラミド骨格の脂肪酸n-9位の不飽和化酵素ADS2に関する研究も変異体の解析が順調に進んであり、植物の低温応答の際に重要な指標となるアントシアニン蓄積に大きく関与していることが明らかとなりつつある。このような状況から、研究はおおむね順調に進んでいると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
植物スフィンゴ脂質のセラミド骨格に不飽和結合を導入する2つの酵素、SLD1およびADS2がともに、植物の低温耐性に寄与することがこれまでに明らかとなりつつある。単独および二重変異体の解析から、SLD1とADS2はどちらも低温ストレス下において低温応答性のHY5遺伝子の発現を介してアントシアニン蓄積による防御に貢献していると考えられた。そこで、さらに広範囲の低温応答に関与する遺伝子群の発現解析を行い、スフィンゴ脂質不飽和度の変化がどのようなメカニズムにより植物の低温応答を制御するのかを明らかにする。また、不飽和結合の異性体が低温ストレス耐性に対して同等の効果を示すかどうかも本研究で注目している点の一つである。LCBΔ8位の不飽和化にはcis型とtrans型が存在し、その比率は植物種によって異なる。複数の植物種のSLDのアミノ酸配列を比較し、cis型あるいはtrans型優先的に不飽和結合を形成するために必要なアミノ酸残基を予測する。それらのアミノ酸に変異を加えた分子種を酵母で発現させ、酵母のLCBを分析し、cis型/trans型を決定する分子機構の解明を目指す。さらには、cis/trans比を改変したシロイヌナズナ、およびイネをさらに詳細に解析し、スフィンゴ脂質の量、質の双方の面からストレス耐性との関係を明らかにする。
|
Research Products
(17 results)