2019 Fiscal Year Annual Research Report
動物細胞外マトリックスを標的とする微生物叢の動態と定着機構の解明及びその応用展開
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18H02166
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
橋本 渉 京都大学, 農学研究科, 教授 (30273519)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
三上 文三 京都大学, 生存圏研究所, 研究員 (40135611)
高瀬 隆一 京都大学, 農学研究科, 助教 (10842156)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 微生物叢 / グリコサミノグリカン / ムチン / 常在機構 / 感染機構 / プロバイオティクス |
Outline of Annual Research Achievements |
ある種の病原細菌や常在細菌は、動物の細胞外粘液層を構成する酸性多糖グリコサミノグリカン(GAG)(例:ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ヘパリン)や糖タンパク質ムチンを定着や分解の標的とする。本研究では、動物宿主粘液層を標的とする代表的な病原細菌と常在細菌(善玉菌、悪玉菌、日和見菌)を対象に、GAGとムチンの認識・断片化・輸送・分解・代謝に関わる分子機構を、ゲノム生物学・分子生物学・構造生物学の観点から解明することを目指す。今年度は以下の成果を得た。 病原細菌Streptococcus agalactiaeはヒアルロン酸を細胞外で二糖にまで分解し、ホスホトランスフェラーゼ系(PTS IIABCD複合体)を介して二糖を細胞内に取り込み資化する。PTS遺伝子破壊株を育種したところ、野生株と破壊株はともにヒアルロン酸分解性を示したが、破壊株はヒアルロン酸資化性を欠損した。また、X線結晶構造解析により決定したPTS IIAの立体構造はロスマンフォールド様モチーフを含む。 善玉菌Lactobacillus rhamnosusのヘパリン代謝に関わる異性化酵素の立体構造をX線結晶構造解析により決定し、活性部位と想定されるクレフトを見いだした。 悪玉菌Clostridium perfringensがヒアルロン酸分解性を示し、RNAseqによりヒアルロン酸で誘導発現する遺伝子群を明らかにした。 日和見菌である腸内優占Bacteroides属細菌について、多くの種が粘液層構成分子(GAGとムチン)を炭素源として資化することから、本細菌群の腸内優占性と粘液層分解・資化性との相関が強く示唆された。その分解・資化過程で、ヒト必須アミノ酸や短鎖脂肪酸を分泌していた。また、Bacteroides属細菌が菌体外に膜小胞を分泌し、膜小胞を介してGAGを分解することを見いだした。 以上のことから、病原細菌及び種々の常在細菌によるGAG標的機構、並びにその生理的意義を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
病原細菌S. agalactiaeのPTS遺伝破壊株がヒアルロン酸資化性を欠損することから、本PTSがヒアルロン酸取り込みの唯一の輸送系であることを明らかにすることができた。したがって、PTSを標的とした阻害剤の開発により、本細菌による感染を抑制することが期待される。 善玉菌L. rhamnosusはヘパリン分解性を示し、悪玉菌C. perfringensはヒアルロン酸を分解するがヘパリンを分解しない。さらに、ヒアルロン酸とコンドロイチン硫酸を分解する病原細菌Stretobacillus moniliformisの増殖はヘパリンにより顕著に阻害される。したがって、GAGに対する基質特異性の差違を利用して、善玉菌を優占増殖させ、病原細菌や悪玉菌を抑制することが可能であることが示された。 日和見菌として分類される腸内優占Bacteroides属細菌の多くがGAGを分解するのみならず、栄養源として資化することを見いだした。GAGは宿主動物の食事に依らず、宿主より恒常的に分泌されることから、このGAG分解・資化性は腸内優占性を決定する要因であると考えられる。さらに、その分解・資化過程で、Bacteroides属細菌が宿主動物の健康を増進する必須アミノ酸及び短鎖脂肪酸を提供することから、Bacteroides属細菌とヒトを含む宿主動物との相利共生関係を実証することができた。したがって、Bacteroides属細菌を次世代プロバイオティクスとして利活用する応用展開への途を開いた。 Bacteroides属細菌の分泌膜小胞がバリアとして機能する粘液層を通過し、粘液層底部に位置するGAGを標的とする新たなナノ粒子によるGAG分解機構が想定される。 以上のことから、病原細菌と常在細菌(善玉菌、悪玉菌と日和見菌)による動物細胞外粘液層への作用に関する分子機構が明らかとなった。さらに、腸内優占性を示すBacteroides属細菌と宿主動物との新たな相利共生モデルを提案することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
ヒト腸内細菌叢に焦点を当て、動物宿主粘液層(GAGとムチン)の存在及び非存在下での腸内細菌叢における各細菌の動態をメタゲノミクスにより解析し、構成細菌の変遷を明らかにするとともに、Bacteroides属細菌種を除く他の腸内細菌の優占要因を特定する。また、完全に嫌気的な腸内と比較して、口腔内は一定レベルの酸素が存在する。また、唾液中にはヒアルロン酸が分泌されていることも知られている。そこで、動物宿主粘液層を標的とする口腔内微生物叢にも焦点を当て、その動態を明らかにする。 動物宿主粘液層には炭素源としての糖質に加えて、窒素源としてのアミノ糖やムチンタンパク質が含まれる。そこで、腸内細菌叢が粘液層を窒素源としても利用していることを、最少培地等を用いた資化性実験により実証する。すでに、腸内細菌の一部が粘液層を窒素源として利用することを示す予備的成果を得ている。 悪玉菌であるClostridium属細菌について、ヒアルロン酸分解に関わる分子実体を同定し、その構造と機能との相関を明らかにする。また、ヒアルロン酸で誘導発現する遺伝子群に焦点を当て、その宿主動物への有害性との関連を解析する。 日和見菌と分類されてきた次世代プロバイオティクスBacteroides属細菌について、GAG分解に機能する膜小胞の形成機構を明らかにするため、膜小胞の構成要素を同定し、それらの機能を解析する。また、バイオセーフティレベル1で、必須アミノ酸と短鎖脂肪酸を分泌するBacteroides属細菌を用いて、ヨーグルト様発酵乳の製造に着手する。 善玉菌としてのヘパリン分解性L. rhamnosusを対象に、そのヘパリン代謝に関わる異性化酵素の構造機能相関を明らかにし、善玉菌の優勢増殖に資する構造基盤を確立する。 以上の研究により、動物宿主粘液層を標的とする微生物叢の動態と定着機構を解明し、その成果を食品・医薬品業界に応用展開する。
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Research Products
(12 results)