2018 Fiscal Year Annual Research Report
細胞膜脂質成分と低分子量Gタンパク質によるTORC2の活性化機構の解明
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18H02168
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
井上 善晴 京都大学, 農学研究科, 教授 (70203263)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | TORC2 / 酵母 / エルゴステロール / メチルグリオキサール |
Outline of Annual Research Achievements |
われわれは以前、解糖系から派生する2-オキソアルデヒドであるメチルグリオキサール(MG)は、酵母ならびに哺乳類細胞においてTOR複合体2(TORC2)を活性化することを明らかにしている。TORC2は生育に必須な機能を持ち、酵母におけるTORC2の破壊は致死となることから、MGによるTORC2の活性化は、生存に必要な応答であると考えられ、MG感受性を示す酵母変異株は、TORC2の活性化に関与する因子が欠損している可能性が期待される。酵母の非必須遺伝子破壊株(約5000株)に対してMG感受性株をスクリーニングした結果、31株の変異株を得た。それらの中に、細胞膜脂質成分であるエルゴステロール(動物細胞におけるコレステロールに相当)の合成系酵素(Erg2およびErg3)の欠損株が含まれていた。そこで、これらの欠損株のMGや、酵母TORC2活性化剤オーレオバシジンA(AbA)によるTORC2-Ypk1/2シグナルの活性化を検討したところ、これらの変異株でもTORC2シグナルの活性化が起こった。 TORC2はMCTと呼ばれる細胞膜上の脂質マイクロドメインに局在する。ホスファチジルコリンのリゾ体アナログであるエデルフォシンはステロールと親和性があり、脂質マイクロドメインに影響を与えることが報告されている。そこで、エデルフォシンで前処理した細胞のTORC2シグナルを検討した。その結果、エデルフォシンはMGやAbAによるTORC2-Ypk1/2シグナルを阻害するのに対し、エデルフォシン自身がTORC2-Pkc1シグナルについては活性化するという新たな現象を発見した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
酵母変異株を用いた網羅的なスクリーニングから、エルゴステロールがTORC2シグナルの活性化に関与することが強く示唆された。また、TORC2がステロールに富む脂質マイクロドメインに局在することから、その構造を破壊、もしくは不安定化する薬剤であるエデルフォシンで処理すると、TORC2シグナルのうち、スフィンゴ脂質合成に関与するTORC2-Ypk1/2シグナルのMGやAbAによる活性化を阻害するのに対し、細胞壁の完全性に関与するTORC2-Pkc1シグナルをエデルフォシン自体が活性化するという、当初予想していなかった新たな現象を発見した。このことは、TORC2シグナルの生理的意義(スフィンゴ脂質合成と細胞壁完全性の維持)を理解するうえで重要な知見であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的に当初の研究計画に従って進める。また今回、エデルフォシンによるTORC2シグナルへの関与について新たな知見を得たので、検討課題として追加する。
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