2020 Fiscal Year Annual Research Report
異形根性に基づく水吸収輸送モデルの構築:細胞―根系間の階層的水分生理情報の統合
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18H02188
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
山内 章 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (30230303)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
三屋 史朗 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (70432250)
仲田 麻奈 名古屋大学, 農学国際教育研究センター, 助教 (70623958)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 根 / 水通導性 / 異形根性 / ルートプレッシャープローブ / 吸水 |
Outline of Annual Research Achievements |
一個体の作物根系は、4種類の異形根(種子根軸、節根軸、それらから発生する側根(L型とS型))から構成されていて、それらの水通導性は、種類と齢によって異なり、それら異形根の発育と根軸上の分布が規定する、根系内の水ポテンシャル勾配によって、根系全体の水吸収・輸送構造が決定されるという考えに基づいたモデルを構築し、実験的にこのことを実証しようとした。 その結果、プレッシャーチャンバー法を用い、出穂期の根系の水通導性(Hydraulic conductivity、Lpr)を測定し、 そのLprと、根系全体に対するS型側根の表面積割合との間に有意な正の相関があることを示した。この結果は、異形根間で根系全体の水吸収に対する貢献度が異なり、 その中でも特にS型側根が高い水吸収能力を持つことを示唆している。 続いて、このことを、 「個根」レベルで実証することを目的とした。 陸稲品種IRAT 109、 水稲品種日本晴およびSwarnaを水耕栽培で生育させ、 側根を分枝している主軸根軸(根端から10-15cm 部位)を水通導性の測定に用いた。 また、処理区として浸透圧ストレス区 (ポリエチレングリコール10% w/w)を設け、 対照区と比較した。個根の水通導性を測定できるルートプレッシャープローブで、 静水圧差が水流の駆動力となるHydrostatic Lprと浸透圧差が駆動力となるOsmotic Lprを測定したところ、浸透圧ストレスによる通導性の有意な減少がIRAT 109のHydrostatic LprおよびSwarnaのOsmotic Lprで認められた。 さらに、 各Lprの値と個根全体に対する各異形根の表面積割合との間にはS型側根のみで有意な正の相関が認められ、上述の根系全体の場合と同様に、S型側根の水吸収に対する高い貢献度が個根レベルでも明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
個根の水通導性を測定するために使用しているルートプレッシャープローブの圧力センサーと、それを分析する専用プログラムに不具合が生じた。それらを開発したドイツのボン大学の当該研究室が、新型コロナ感染症拡大の影響を受け機能しなくなったので、修理が大幅に遅れ測定が長期間にわたってできない状況が続いた。
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Strategy for Future Research Activity |
根における放射方向の水の移動経路は、静水圧勾配に駆動されるアポプラスト経路と浸透圧勾配に駆動されるCell-to-cell経路に分けられる。後者の表皮から導管までの水の流れは、 複数の細胞層を経由するため、経路内に存在する細胞数や、リグニン・スベリン等疎水性物質の蓄積程度、皮層柔細胞が崩壊して形成される通気組織などにより通導抵抗が変化すると考えられる。そこで、最も太い主軸根と、相対的に太く、長く、分枝する能力をもつL型側根は、 細く、 短く、 分枝する能力をもたないS型側根に比べ放射方向の細胞数が多く、 通気組織面積率は、主軸根では70%程度、L型側根では40%程度であった(湛水条件、出穂2週間後の各根の中央部)のに対し、S型側根は通気組織を形成しないことを明らかにした。 さらに、これらの根において、主に外皮、 皮層内厚壁組織および内皮細胞の細胞壁に疎水性物質の蓄積が観察された。一方で、S型側根は、表皮、細胞壁2次肥厚のみられない下皮、 1~2層の皮層細胞、内皮、2つの原生木部から構成される単純な構造を有していた。 これらに加え、細胞間の水移動には、アクアポリンの働きが大きく関与していることが報告されている。異形根間では、アクアポリン発現量も異なることが予想されるが、それを測定した研究は報告されておらず、異形根間におけるCell-to-cell経路の水通導性の差異とその制御機構の解明には至っていない。さらに、アクアポリン遺伝子の発現は水分や光などの周辺環境の影響を大きく受けることが先行研究で報告されている。そこでこれからは、遺伝子発現解析において必要な試料を安定的に得られる材料の育成法、サンプリング条件および分析に必要な試料量の検討および、異形根間のアクアポリン遺伝子発現量の差異を明らかにすることを目標とする。
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