2018 Fiscal Year Annual Research Report
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18H02194
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
樋口 洋平 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 講師 (00746844)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
久松 完 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 野菜花き研究部門, 上級研究員 (00355710)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | キク / 光周性花成 / フィトクロム / 概日時計 / ゲノム編集 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、キクの光周性花成反応における暗期長認識機構について、申請者らが整備した高精度なゲノム・遺伝子解析ツールを駆使して明らかにする。「電照菊」で知られるキクの花芽分化は、光周期の変化に鋭敏に応答して発現する「アンチフロリゲン(AFT)」が重要な役割を果たす。AFTの発現誘導には日没を起点とした概日リズムが作り出す光誘導相とフィトクロム (PHYB)シグナルの相互作用が必須であるが、AFTの転写制御を担う因子は明らかとなっていない。本研究では、PHYBの下流でAFTの発現制御に関わる概日時計因子を明らかにすることにより、キクの暗期長認識機構について明らかにすることを目的としている。 カスタムアレイ解析による予備的なスクリーニングで得られている恒常的活性型PHYB (BYH)のターゲット候補遺伝子について、GI (CsGI, CsGI2)およびPRR7 (CsPRR7, CsPRR37) 相同遺伝子を標的としてCRISPR/Cas9による遺伝子破壊株の作出に取り組んだ。pDeCas9-Kanベクターを用い、それぞれの遺伝子につき2もしくは4箇所のターゲット配列をgRNAとして使用し、効率的な切断が起こる培養条件の検討に取り組んだ。野生型植物、Bwt、 BYH形質転換体において短日 (SD)および暗期中断(NB)条件下におけるRNA-seq解析を実施し、昨年度整備されたキクタニギクゲノム上の遺伝子モデルにマップし、網羅率の高い遺伝子発現変動プロファイルを取得した。PHYB-RNAi形質転換体において赤色光パルスによるAFTの光誘導実験を行い、野生型と比較して光誘導相出現のタイミングに影響を与えないことを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに60-Kカスタムマイクロアレイを用いた予備的なスクリーニングの結果、BYH過剰発現体で発現が上昇する遺伝子のうち、概日時計関連遺伝子としてGIとPRR7相同遺伝子に着目した。キクタニギクのゲノム解析の結果から予測された遺伝子モデルを精査した結果、GI相同遺伝子については3種類 (CsGI, CsGI2, CsGI3), PRR7相同遺伝子についても3種類 (PRR7, PRR37, PRR73)が見つかった。CsGIとCsGI2については塩基レベルでの配列同一性が極めて高く、Q-PCRで両者を区別するプライマーの設計は困難であった。CsGI3の発現はCsGI/GI2と比較して低く日周変動性も弱かったことから、解析対象から除外した。またPRR7とPRR37は塩基レベルでの相同性が高かったことから、これら2つを同時に遺伝子破壊することを試みた。複数の双子葉植物で使用実績のあるpDeCas9-Kanベクターを用い、CsGI/CsGI2およびCsPRR7/CsPRR37の二重遺伝子破壊株の作出に取り組み、遺伝子導入が確認された再分化個体を複数得た。これら形質転換体の一部について標的配列の変異を確認したが、切断が起こった個体は確認できなかった。 野生型植物、Bwt、BYH過剰発現体を用い、SD条件とNB条件下において24時間、4時間おきに葉をサンプリングし、RNA-seq解析を実施した。得られたリードをキクタニギクゲノム上の遺伝子モデルにマップすることで、網羅的な遺伝子の日周発現変動プロファイルを取得した。 CsPHYB-RNAi形質転換体において赤色光パルスによるAFTの光誘導実験を行った結果、野生型と比較して光誘導相出現の時間帯に変化はなく、振幅のみが低下する結果が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、活性型PHYBの下流で機能する概日時計遺伝子ならびに暗期長の計測メカニズムを明らかにするため、CRISPR/Cas9による遺伝子破壊によって高精度な機能解析を実現することが第一の目標である。しかしながら、これまでに取り組んだ複数遺伝子のゲノム編集実験の結果、キクタニギクにおけるターゲット遺伝子の切断効率が極めて低い可能性が浮上した。この問題を解決するため、CRISPR/Cas9ベクターの改変および組織培養条件の検討を既に開始しており、今年度の前半で実験条件の最適化を図る予定である。具体的には、これまで使用していたpDeCas9-Kanベクター上のCas9発現カセットにおいてPcUBI promoterの直後にAtADH-5’UTRの翻訳エンハンサーを挿入し、Pea 3A terminatorをHSP terminatorに置換した。これによりCas9タンパク質の転写・翻訳が改善されることが期待される。加えて、gRNA発現カセットのAtU6-26 promoterをキクタニギク内在性のU6 promoter等に変更し、転写量の向上を図る予定である。また、組織培養初期のカルス形成期間を延長し、シュート再生を一時的に抑制させることで切断効率の上昇が見込まれる。概日時計構成遺伝子としては昨年度に引き続きCsGI/GI2, CsPRR7/PRR37の遺伝子破壊に取り組むことに加え、光誘導相の形成に関与することが報告されているELF3や、ECと呼ばれる複合体を構成するELF4, LUX等の因子の機能解析にも着手する。これら遺伝子の破壊株が作製でき次第、人工気象器を用いて花成反応の評価に取り組む。
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Research Products
(4 results)