2020 Fiscal Year Annual Research Report
Characterization of long shelf-life and pulp disorder-alleviating mechanisms using late-harvest rare peach cultivars bred private growers as genetic resource
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18H02200
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中野 龍平 京都大学, 農学研究科, 准教授 (70294444)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
牛島 幸一郎 岡山大学, 環境生命科学研究科, 准教授 (20379720)
福田 文夫 岡山大学, 環境生命科学研究科, 准教授 (60294443)
高田 大輔 福島大学, 食農学類, 准教授 (80456178)
河井 崇 岡山大学, 環境生命科学研究科, 助教 (90721134)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 軟化 / PG / Melting locus / エチレン / 棚持ち / 熟期 / 枝変わり / モモ |
Outline of Annual Research Achievements |
1)桃水、大寿蜜桃、冬美白を用いたエチレン応答に関する解析:エチレンに応答した軟化を示さない大寿蜜桃においてRe-seq解析の結果、溶質/不溶質の決定に関わると報告されている、M遺伝子座の細胞壁分解酵素をコードするPG遺伝子が欠損していることが明らかとなった。また、収穫後通常の軟化を示す冬美白は、新規のMハプロタイプを有することが明らかとなった。国内外の約400品種のM遺伝型と肉質との関係を調査したところ、この新しいMハプロタイプは日本の多くの溶質品種に存在しており、優性遺伝子として働いていること、Prunus属の種分化の早い段階で他のMハプロタイプより別れて進化したことなどが示された。また、エチレン生合成能力は欠失しているが、エチレン反応性を有する桃水でも冬美白と同じ新規Mハプロタイプを持つことが確認された。 2)紅博桃およびその枝変わり系統を用いた解析:Re-seq解析の結果、紅博桃の枝変わりでは、第4染色体の約13Mbの領域において、親株ではヘテロの配列がホモになる変異、がん細胞などで報告されているLoss of heterozygosity (LOH)が起こっていることが明らかとなった。この領域には2000以上の遺伝子が存在いるが、果実の品質、熟期、障害発生などに関与する様々のQTLの座乗している領域であり、この枝変わりで多面的な形質変異が観察される原因であると考えられた。RNA-seq解析を加えたより詳細な解析の結果、特に、熟期に関しては、NAC遺伝子において、早生化への連鎖が報告されている9bpの挿入を含む遺伝子型が親株はヘテロに持つのに対して、枝変わりでは挿入がない遺伝子型のホモになっており、このLOHの熟期遅延への関与が示された。この熟期遅延の形質は接ぎ木によっても維持されており安定した変異であることが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまでに、エチレン生合能が欠損した桃水に関して、硬肉モモと同じYucca11遺伝子の変異を見つけるだけでなく、この変異を日本の多くの品種が潜在的に保持していることを明らかにした(Kawai et al., 2020、学会発表1件)。さらに、エチレンに応答した軟化を示さない大寿蜜桃に関してM遺伝子座のPG遺伝子が欠失していることを明らかにするとともに、冬美白においてこれまで報告されていない新しいMハプロタイプを発見するとともに、この新規Mハプロタイプが日本の溶質系モモのメルティング質な肉質形成に関わること、他のMハプロタイプとは独立して進化したことを明らかとした。この発見は、M遺伝子型と肉質との関係を示すこれまでの説を覆すものであり、高く評価されており(Nakano et al., 2020、学会発表3件)、当初の想定以上の成果となっている。紅博桃では同じ樹内の枝単位において熟期が大きく異なること、枝変わりにおいて障害発生が多いなど多面的な形質の違いが明らかになった。さらに、第4染色体の約13Mbp領域において親株のヘテロ配列が枝変わりではホモ配列になる変異、がん細胞で報告されているLOHが生じていることを発見している。親株の染色体の片側に大きな欠損が生じ、その修復が起こった際に、上記のような変異が生じ枝変わりとなって見つかったと推察され、当初には予定していなかった、大変、興味深い変異であることが明らかとなり、現在、論文準備中である。これらの新たな発見をさらに詳しく解明するための解析や交配集団の育成、様々な民間育成品種との関係を明らかにするための材料収集やその解析なども進んでおり、当初の計画以上に研究は進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までに、自己触媒的エチレン生合成能が欠損した桃水やエチレン応答能が欠損した大寿蜜桃では、それぞれYucca11遺伝子やPG遺伝子の変異などが見つかっている。紅博桃枝変わりではLG4の約13Mbpの領域にてLoss of Heterozygosity (LOH)が起こっており、その領域内のNAC遺伝子のホモ化の熟期遅延への関与が示唆された。これらの成果を基に、本年度は以下の研究を計画する。 1)桃水と大寿蜜桃を用いたエチレン生成およびエチレン応答に関する解析:桃水と大寿蜜桃では、それぞれYucca11遺伝子およびPG遺伝子の変異が見つかったが、他の軟化関連遺伝子やエチレン応答関連遺伝子の関与の可能性もある。桃水、大寿蜜桃および正常品種の川中島白桃に関して、RNA-seqとDNA-seqの解析結果と合わせ、自己触媒的エチレン生成とエチレン誘導軟化に関わるシグナル伝達系因子の探索や、モモの軟化に関連する細胞壁分解関連遺伝子群の特定を試みる。また、より詳細な遺伝解析を目的とした大寿蜜桃と川中島白桃の交配後代の育成を継続する。 2)紅博桃、枝変わり系統およびあかつきの解析; これまでのDNA-seqを中心とした解析に、発育段階的なRNA-seqデータや紅博桃の基品種であかつきとの比較解析を組合すことより、果実肥大、熟期、果肉異常に関わる因子のさらなる探索を試みる。今後の遺伝解析のために親株および枝変わりの自家受粉による後代の獲得を継続し、接ぎ木による表現型の保持に関する年次変動を調査する。 3)ワッサーなど特徴的な日持ち性や肉質を示すとされる他の民間育成品種に関して、エチレン生成やエチレン応答性など成熟特性を詳細に調査するとともに、これまでに明らかとした関連遺伝子の遺伝子型などを調査し、それそれの品種の日持ち性や成熟特性との関連を明らかとする。
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