2019 Fiscal Year Annual Research Report
ウイルスベクタ―の機能を活用したリンゴ黒星病新規制御技術に関する基盤研究
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18H02202
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
吉川 信幸 岩手大学, 農学部, 教授 (40191556)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
八重樫 元 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 果樹茶業研究部門, 主任研究員 (90582594)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | リンゴ黒星病菌 / リンゴ斑点落葉病菌 / 黒星病抵抗性品種母本 / ALSVベクター / HIGS |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度に得られたF1実生について、早期開花用ALSVべクターを接種すると共に、Vf と変異型MdACS1をDNA(PCR)マーカーを用いて解析した。その結果、ALSVベクター感染実生は、‘ふじ’由来で85個体、 ‘はるか’由来で95個体、‘王林’由来で24個体得られた。Vf保有個体と非保有個体数は、’ふじ’由来で46:39、‘はるか’由来で46:49、‘王林’由来で7:6となり、予想通り1:1に分離した。一方、変異型MdACS1は、‘ふじ’由来が85個体、‘はるか’由来が95個体の全てで変異型MdACS1であった。‘王林’由来(24個体)は日持ち性有りは13個体であった。以上のように、ALSVベクター感染実生の中で、黒星病抵抗性と日持ち性を有するF1実生が3品種合わせて99個体得られた。さらに早期開花後、果実が成熟段階まで成長した個体中で、食味良好で品種として有望な個体が‘ふじ’由来3個体、‘はるか’由来で1個体得られた。これらの個体は、ALSV除去処理(37℃で1ヶ月)を終了した。 リンゴ黒星病菌の生存・感染に必須なステロール合成酵素遺伝子(CYP51A1)およびリンゴ斑点落葉病菌のAM毒素合成遺伝子(AMT1)の一部をALSVベクタ―に導入し、ALSV-CYP51およびALSV-AMT1ベクターを構築した。令和元年度はALSV-CYP51に感染したリンゴ実生(8~10葉期)を育成し、黒星病胞子(5 x 105個/ml)を接種した。その結果、接種後2週間には全個体で上位葉がえそを起こし、枯死し、HIGSによる明確な感染阻止個体は観察されなかった。一方、ALSV-AMT1を接種したリンゴ実生では、リンゴ斑点落葉病菌の感染を阻害する結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度に獲得したF1実生について、ALSVべクターを接種すると共に、Vfと変異型MdACS1の保有を解析した。その結果、ALSVベクター感染実生の中で、黒星病抵抗性を有し、かつ日持ち性の高いと推定されるF1実生が3品種を合わせて99個体得られた。ALSVベクター技術による早期開花後、果実が成熟段階まで成長した個体について食味判定し、黒星病抵抗性および保存性を有し、食味良好な品種母本として有望な個体が、‘ふじ’由来で3個体、‘はるか’由来で1個体得ることができた。これらの個体は、ALSV除去処理(37℃で1ヶ月)を終了し、今後矮性台木への接ぎ木を行う予定であり、令和元年度は予定通り進行している。 HIGSの感染阻害効果の解析では、リンゴ黒星病菌の生存・感染に必須なステロール合成酵素遺伝子(CYP51A1;DMI剤の標的遺伝子)およびリンゴ斑点落葉病菌のAM毒素合成遺伝子(AMT1)の一部をALSVベクタ―に導入し、HIGS誘導用ベクターであるALSV-CYP51およびALSV-AMT1を構築した。さらにこれらベクターに感染したリンゴ実生の作出を行った。続いて、リンゴ黒星病胞子(5 x 105個/ml)を接種し、HIGSの効果を調べたが、接種後2週間には全個体で上位葉がえそを起こし、枯死した。このようにALSV-CYP51感染リンゴでは、HIGSによる明確な感染阻止個体は観察されなかった。一方、斑点落葉病菌については、切除した葉を供しして抵抗性を短期間に調べることが可能なため、最適な接種条件の決定を行った。また、ALSV-AMT1を接種したリンゴ実生の葉がリンゴ斑点落葉病菌の感染を阻害する結果が得られており、今後詳細に解析する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
黒星病抵抗性遺伝子(Vf)と日持ち性関連遺伝子(変異型MdACS1)をホモに持つリンゴ品種母本の育成については、平成30年春に交配して得られたF1種子について、令和元年度にDNAマーカーによるVfと変異型MdACS1の解析、および高速開花用ALSVベクター技術によるは早期開花と果実形成を達成した。その結果、黒星病抵抗性および日持ち性(保存性)を有し、食味良好な品種として有望な株を‘ふじ’由来3個体、‘はるか’由来1個体得た。これらの個体はすでに高温処理によるALSVベクター除去を終了した。今後はリンゴ矮性台木(JM台木)に接ぎ木して、リンゴ母本を育成するとともに、ALSV検定を実施してウイルスフリーであることを確認する。これらの実験は隔離温室で実施するが、ALSVが感染していないことを確認した後は、生物多様性影響評価検討会に届け出て、野外圃場での、栽培試験を行う予定である。 HIGSによるリンゴ病害の抵抗性誘導については、黒星病は接種後発病まで2週間以上を要するのに対して、斑点落葉病菌では数日で効果を判定できる。令和元年度には斑点落葉病菌のリンゴ葉への接種条件の検討を終了し、予備実験でHIGSによる抵抗性誘導の結果が得られている。そこで、当初の予定の変更になるが、令和2年度は斑点落葉病菌を中心に実施することとしたい。
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