2021 Fiscal Year Annual Research Report
超低温保存が可能な種子における天然変性蛋白質の卓越した保護活性の分子機構
Project/Area Number |
18H02222
|
Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
原 正和 静岡大学, 創造科学技術大学院, 教授 (10293614)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
今井 亮三 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, グループ長 (90291913)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 超低温保存 / タンパク質保護 / 天然変性タンパク質 / デハイドリン |
Outline of Annual Research Achievements |
植物の種子には、超低温保存が可能なもの(オーソドックス種子)と、冷蔵保温すら不可能なもの(レカルシトラント種子)がある。しかし、この違いの分子的要因は未だ解明されていない。本研究の実施者は、種子の低温保存性に関与する種子胚タンパク質デハイドリンについて研究している。デハイドリンは植物固有の天然変性タンパク質であり、その保存領域は低温感受性モデル酵素(乳酸脱水素酵素LDH)の超低温失活を0.001%レベルでほぼ完全に抑止する。この活性は通常の保護剤の約1,000倍に達する。本研究では、デハイドリン保存領域による超低温保護活性のメカニズムを究明する。 昨年度までに、シロイヌナズナデハイドリンAtHIRD11に関し、LDHの凍結保護機構について研究してきた。その結果AtHIRD11はLDHに結合せずに作用すること、保護作用には疎水性アミノ酸が必要であること、液性を疎水性にすると変性状態からヘリックス状態へ構造変化することが判明した。これらのデータを総合的に勘案すると、従来の保護剤の作用仮説、つまり選択的排除説または分子シールド説とは異なる説を想定する必要が生じ、一過的疎水性相互作用説を提唱した(米国生物物理学専門誌に掲載)。 本年度は、計画にあるようにAtHIRD11以外の植物タンパク質の凍結保護活性の探索を行った。その結果、ダイコンからデハイドリン以上の保護活性を有するタンパク質を精製した。本タンパク質はダイコンの液胞に存在するカルシウム結合タンパク質として過去に研究されたものであった。今回、ダイコンおろしから従来の約4,000倍の収率で精製する方法を見出し、その保護活性ドメインの同定にも成功した。さらに、新たにデハイドリンのリポソーム凍結保護活性を見出しその作用ドメインがLDHの場合と同様Kセグメントであるという結果を得た。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度、シロイヌナズナデハイドリンAtHIRD11のLDH保護作用機構が概ね明らかになり、一過的疎水性相互作用説を提唱するに至った。本年度は研究計画に即し、AtHIRD11以外の凍結保護活性を有する植物タンパク質の探索を行った。その結果、身近な野菜であるダイコンから、AtHIRD11を上回る活性を示す天然変性タンパク質を見出し同定した。本タンパク質はデハイドリンとは関連のない配列を有していた。また、AtHIRD11がリポソームの凍結凝集を抑制することを明らかにし、保護配列であるKセグメントが活性部位であることを確定した。以上の成果は、生体高分子並びにコロイドに関する国際専門誌に掲載された。よって上記の評価とした。
|
Strategy for Future Research Activity |
昨年度までに、デハイドリンの凍結保護作用機構の解明と新たな凍結保護タンパク質の探索を行った。以上の結果を統合すると、凍結保護活性を有するタンパク質は天然変性状態であるとともに一過的疎水性相互作用機構に基づいて機能することが判明しつつある。しかしこの共通原則は、LDHを使った凍結試験によって導かれており、普遍化には議論の余地がある。そこでLDHとは異なるタンパク質やリポソームに対する凍結保護機構を、デハイドリンとダイコン天然変性タンパク質の両方で研究する。最終的に、植物天然変性タンパク質の凍結保護作用に関し、作用機構を包括的に解明する。さらに、植物体のデハイドリンの役割についても研究を進める。
|