2019 Fiscal Year Annual Research Report
Biological effects of long-term radiation exposure on wild animals and plants
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18H02229
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Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
水澤 玲子 福島大学, 人間発達文化学類, 准教授 (30722946)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石庭 寛子 福島大学, 環境放射能研究所, 特任助教 (00624967)
兼子 伸吾 福島大学, 共生システム理工学類, 准教授 (30635983)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 福島第一原子力発電所 / 野生生物 / 遺伝的影響 / 放射能 |
Outline of Annual Research Achievements |
【アカマツの生殖細胞に生じる突然変異率について】2018年度に開発した雌性配偶体と母樹の遺伝子型を比較する手法を用い、帰還困難区域に生育する5個体の母樹から採集した種子484個について、9座のマイクロサテライトマーカーを用いたジェノタイピングを行った。その結果、少なくとも分析した4251ヶ所で突然変異が検出されなかったことから、2019年度に分析したサンプルの平均突然変異率は2.29×10^(-4)以下であると推定された。 【アカマツの葉に生じるDNA酸化損傷について】帰還困難区域内の4個体と福島大学キャンパス内の6個体についてデータロガーを設置し、温度と紫外線の測定を開始した。また、細胞が紫外線や放射線に曝露されることで生じるDNA酸化損傷レベルを測定するための実験手法の最適化を行った。太陽光及びトランスイルミネーターを用いて、アカマツの葉に紫外線を照射した後、EpiQuik 8-OHdG DNA Damage Quantification Direct Kitを用いて8-OHdG濃度を測定したが、いずれの照射方法においてもDNA酸化損傷の有意な上昇は見られなかった。したがって、DNA酸化損傷に対する放射線被曝の影響を評価する際、紫外線が測定値に及ぼす影響はさほど大きくないものと考えられる。 【アカネズミの内部被ばく状況および遺伝的変異の分析について】高線量、中線量、及び低線量の各地点から採集した200個体のアカネズミを分析した結果、組織中の放射性セシウム量は必ずしもサンプリング地点の空間線量を反映しないことが明らかになった。また、アカネズミゲノム中のエクソン領域を増幅するプライマー78組の設計に成功した。これらの候補領域について集団遺伝学的分析を行うことで、放射線被ばくが野生のアカネズミにとって淘汰圧として作用しているかどうかを分析することができると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
年度初めの計画では、アカマツについては、DNA酸化損傷測定手法の最適化と分析を完了するとともに、SSRマーカーの最適化も完了する予定であった。また染色体異常の分析方法の検討を開始する予定であった。アカネズミについては、サンプリングと放射性セシウム量の測定を完了し、DNA酸化損傷と遺伝的変異の分析による淘汰圧の測定を開始する予定であった。 このうち、アカマツのDNA酸化損傷の測定手法の最適化は完了し、紫外線がDNA酸化損傷に及ぼす影響についても分析を行ったが、放射線被ばくの影響については2020年度に持ち越しとなった。アカマツのDNA酸化損傷及び突然変異率については、放射線との関係だけではなく、生育地の気温及び紫外線量の影響についても考慮した分析を行う予定であったため、高線量及び中線量地域について温度・紫外線ロガーの設置を行ったところであったが、台風19号の影響により低線量地域におけるロガーの設置が困難となったため、環境変数の測定についても2020年度以降に持ち越されることとなった。染色体異常の分析については検討を行った結果、比較的容易に染色体画像を得ることができるものの、分析にかかる手間に比して結論を得るのに必要となるサンプル数が膨大であるため、引き続き手法の改良が必要である。アカネズミについては、サンプリングと放射性セシウムの測定を予定通り完了した。低線量被ばくが集団に及ぼす自然淘汰の測定については、候補領域を増幅するプライマーの開発を開始したが、放射線感受性関連遺伝子領域を用いた分析は2020年度に持ち越しとなった。一方で、当初の予定では2020年度に本格的な分析に取り掛かるはずであったアカマツ種子の突然変異率について、半分程度のサンプルで分析が終了している。
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Strategy for Future Research Activity |
【植物について】2019年度までの研究により、アカマツの生殖細胞に生じるDNA突然変異について分析手法が確立されたため、2020年度に300サンプル程度の種子について追加のジェノタイピングを行い、分析を終了したい。DNA酸化損傷については、分析対象をアカマツ以外の植物種にも広げる。アカマツの葉では紫外線照射によるDNA酸化損傷レベルの上昇は認められなかった。アカマツは明るい環境に適応した植物であるため、紫外線に対する抵抗性や抗酸化能力が高い可能性がある。今後は、当初計画どおり低線量被ばくがアカマツのDNA酸化損傷レベルに及ぼす影響について分析を進めるのと併せて、DNA酸化損傷に対する抵抗性の植物種による違いについてさらに掘り下げていく。具体的には、比較的暗い環境を好む植物の中から新たな対象種を選定し、栽培条件下において放射線や紫外線被ばくが実生のDNA酸化損傷レベルに及ぼす影響を分析する。
【アカネズミについて】生殖細胞に生じる突然変異については、2019年にメスと仔の間の突然変異率の分析手法について検討を開始した。今後は、雄と精子の間の突然変異率の分析手法についても検討を進める。また、高線量地域における放射線感受性関連遺伝子への自然選択の分析については、2019年度にリストアップされた候補領域の中から分析コストなどを勘案しつつ対象領域を選択し、集団遺伝学的な手法を用いて変異解析を進めていく。
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Research Products
(4 results)