2021 Fiscal Year Annual Research Report
Biological effects of long-term radiation exposure on wild animals and plants
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18H02229
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Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
水澤 玲子 福島大学, 人間発達文化学類, 准教授 (30722946)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石庭 寛子 福島大学, 環境放射能研究所, 特任助教 (00624967)
兼子 伸吾 福島大学, 共生システム理工学類, 准教授 (30635983)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 福島第一原子力発電所 / 突然変異率 / DNA酸化損傷 / アカマツ / アカネズミ / マイクロサテライトマーカー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、福島第一原子力発電所事故に伴い設定された避難指示区域内外において、野生生物を対象にDNA突然変異率、DNA酸化損傷、及び放射線感受性関連遺伝子のアリル頻度を比較することで、長期的な低線量被ばくが野生生物に及ぼす生物学的影響を明らかにすることを目的としている。 これまでに、帰還困難区域内のアカマツの種子580粒についてSSRマーカー9座を用いて5071の遺伝子型を決定し、1つの突然変異を検出した。突然変異率の値としては1.97×10^-4である。 アカマツのDNA酸化損傷については、帰還困難区域の内外から採取した針葉について8-OHdG濃度を比較したが、統計的に有意な差は見られなかった。一方で、避難指示区域の外で採取した幼木にCs線源による人工照射実験を行ったところ、被ばく線量とDNA酸化損傷に相関は見られないのに対し、野外で採取してから実験に使用するまでの栽培日数は有意な説明変数として検出された。また、実験後の枯死率は照射した線量率に応じて有意に上昇した。これらの結果から、Cs線源による被ばくがDNA酸化損傷に及ぼす影響は、環境ストレスによって生じるDNA酸化損傷と比べて相対的に小さいと考えられた。植物は常に光合成に起因する酸化ストレスに曝されているため、放射線に起因する酸化ストレスの影響は相対的に小さい可能性がある。 これに対してアカネズミでは、帰還困難区域内で採取した個体の精巣のDNA酸化損傷は帰還困難区域の外で採取されたサンプルと比べて高かった。ただし、DNA酸化損傷は精子形成過程の終盤に一時的に出現するものの成熟過程で修復され、完成した精子では検出されなかった。また、RAD-seqを用いた母子の遺伝子型比較からも、帰還困難区域の内外で突然変異率の有意な差は検出されなかった。関連解析の結果でも、個体の被ばく量と遺伝子型との間に関連は見られなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
一昨年度および昨年度は、COVID-19の感染拡大を鑑み出張を自粛し、実験室における分析を優先的に進めてきたが、その間に帰還困難区域内の除染が進み調査地の一部が避難指示区域から外れるなど、復興が進んだ。その結果として、高線量地域の調査地にUVロガーを設置して年間の積算UV照射量を測定することが難しい状況となった。ただし、実験室におけるUV照射実験からは、UV照射とアカマツのDNA酸化損傷の間に関連がみられないことを確認しており、野外におけるUV照射量の測定データが得られなくとも、本研究の目標達成にはさほど影響しない。その他の項目については順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は本研究課題の最終年度に当たるため、論文の執筆と並行して不足データの補完を中心に行う。具体的には、アカマツのDNA突然変異率については、帰還困難区域の外で採取した種子500サンプルを目標に、上述の9遺伝子座を用いたジェノタイピングを進めるとともに、MinIONシーケンサーを用いて同一シュート内の針葉の間でDNA塩基配列を比較し、シュート内で生じる突然変異率が帰還困難区域内外で異なるか否かを検討する。アカマツのDNA酸化損傷については、本研究課題の初期に得られたシグナルがやや弱い点に課題が残るため、帰還困難区域の内外から新たに採取したサンプルについて再度8-OHdG濃度の測定を行い、結果の再現性を確認するとともに(再サンプリングは5月上旬までに終了してる)、別の酸化ストレスマーカーであるSODの濃度を測定し、より詳細な酸化ストレスの評価を試みる。アカネズミについては、放射線感受性関連遺伝子を効率よくPCR増幅するためのプライマーを、AIを用いて設計し、帰還困難区域内外の集団について当該領域に対する自然選択の強さを比較する。上で述べた通り、既に関連解析の結果からは被ばく量と遺伝子型との間に相関がみられないという結果が得られていることから、本年度に実施する方法でも同様の結果が得られた場合、帰還困難区域内のアカネズミの低線量被ばくは検出可能なレベルの強い選択圧を及ぼしていないと解釈される。
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Research Products
(5 results)