2019 Fiscal Year Annual Research Report
倒木更新におけるコケ植物-シアノバクテリア-菌根菌共生系の窒素供給機構の解明
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18H02231
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松下 範久 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (00282567)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
福田 健二 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (30208954)
練 春蘭 東京大学, アジア生物資源環境研究センター, 教授 (40376695)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 共生 / 窒素固定速度 / 倒木更新 / イワダレゴケ / 葉齢 / 単離 |
Outline of Annual Research Achievements |
北方林や亜高山帯林では,コケ植物に覆われた倒木上にマツ科樹木の実生が定着する「倒木更新」が多くみられる。そのため,北方林や亜高山帯林の生態系を完全に理解するためには,倒木更新のメカニズムの解明が重要である。本研究では,倒木更新におけるコケ植物-シアノバクテリア-菌根菌共生系の役割を明らかにするために,コケ植物とシアノバクテリアの共生による窒素固定機能の実態を把握し,コケ植物から実生への窒素の転流経路を特定することを目的とする。2019年度の主な成果は,以下の通りである。 1)東京大学秩父演習林内の標高の異なる3地点を調査地とした。25本の倒木からイワダレゴケを採取し,茎葉体の年齢(葉齢)ごとの窒素固定速度を測定し,シアノバクテリアの着生量を蛍光顕微鏡観察に基づいて評価した。その結果,窒素固定速度とシアノバクテリアの着生量は,当年葉でともに低く,1年葉で最大となり,以降は茎葉体が古くなるほど減少する傾向が見られた。 2)1)で採取した茎葉体のうち,窒素固定速度の大きかった茎葉体からDNAを抽出し,窒素固定細菌のニトロゲナーゼ還元酵素遺伝子についてアンプリコンシーケンス解析を行った。得られた塩基配列をOTUに分類して系統解析を行った結果,ヨーロッパの北方林において報告されているシアノバクテリアの系統群に加えて,富士山亜高山帯林でのみ報告されている日本固有の可能性がある系統群の存在が確認された。 3)秩父演習林内の倒木から採取したイワダレゴケの茎葉体から,シアノバクテリアの単離を試みた。その結果,1菌株の単離に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画のうち,コケ植物に着生するシアノバクテリアの種構成と窒素固定量の解明については,計画通り進捗しているが,コケ植物から実生への窒素の転流経路の特定については,解析に適した倒木上の実生が得られなかったため解析が遅れている。また,コケ植物(イワダレゴケ)とマツ科樹木実生の閉鎖培養系の構築を試みているが,イワダレゴケを長期間生存させることは可能になったものの,成長パターンが野外とは異なってしまうため,培養条件を検討している状態である。
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Strategy for Future Research Activity |
シアノバクテリアの着生量や窒素固定速度が,同じ標高であっても倒木ごとに異なっていたため,その理由を明らかにするための調査・実験等を行う。また,定量PCR法によるシアノバクテリアの定量方法を検討し,今年度まで行ってきた蛍光実体顕微鏡での観察によるシアノバクテリアの着生量の評価が適切であるのかを確認する。今年度に分離培養に成功したシアノバクテリア菌株について,種同定と窒素固定能力の有無を確認する。一方,2019年度に引き続き,コケ植物から樹木実生への窒素転流経路を明らかにするための閉鎖培養系の構築を試みながら,野外実験で本目的を達成できる手法についても検討する。
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