2019 Fiscal Year Annual Research Report
構造の複雑さがなぜ森林の生産量を高めるのか?生理生態学的メカニズムの徹底検証
Project/Area Number |
18H02236
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
飯尾 淳弘 静岡大学, 農学部, 准教授 (90422740)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
楢本 正明 静岡大学, 農学部, 准教授 (10507635)
水永 博己 静岡大学, 農学部, 教授 (20291552)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 機能的多様性 / 葉分布構造 / 葉フェノロジー / 樹液流量 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、樹種多様性の高い冷温帯落葉広葉樹林を対象に、樹種の生理生態学的な個性を盛り込んだ光合成、蒸散量推定モデルを開発する。2019年度は、そのモデルの一要素となる樹冠構造と蒸散量の時間的変化の種多様性を調べた。具体的には、試験地を代表する16樹種について、個体の蒸散量(水消費量)の季節変化と葉フェノロジー(着葉量の時間的な変化)を、樹液流計測法とドローンによる写真撮影で調べた。葉フェノロジーについては、地上からの目視調査も同時に行い、ドローンによる調査の精度評価も行った。 葉フェノロジーは樹種で大きく異なり、既往の研究報告にあるように、開葉の早い樹種ほど落葉が遅く、葉を長くつける傾向にあった。また、ドローンと地上目視調査を比較したところ、ドローンによる評価は、樹木の着葉度を投影面積あたりで判定するため、樹木体積あたりで評価する目視調査よりも着葉度をやや過大評価する傾向にあった。しかし、樹種による開葉日や落葉開始日の違いが手法間で入れ替わってしまうような大きな差ではなかった。 蒸散量の季節変化も樹種による違いが見られ、樹液の上昇の開始が早い樹種ほど、樹液流量が最大に達するタイミングが遅い傾向にあった。生育期間の限られる温帯林では、その期間の長さが年間生産量に直結する。そのため、開葉の遅い樹種はピークまでの時間を短縮することで、その不利を小さくしていると考えられる。ところが、クマシデやナツツバキなどは、開葉後しらばらく樹液が上昇しないため、葉のフェノロジーでは樹液流量のような明確なトレードオフ関係は見られなかった。年間の光合成量や蒸散量を計算する際には、このような、構造と機能のフェノロジーの樹種間差を考慮する必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画では樹種による葉分布構造と水利用効率の違いを調べ、それに基づいたモデルの試作を行う予定であったが、昨年度の台風により、2基の足場鉄塔が倒壊して調査木が折れるなど、大きな被害を受けた。また、主要な調査機器である3次元レーザースキャナーやガス交換測定装置が相次いで故障するなどのトラブルにも見舞われた。そのため、翌年以降に予定していた樹種による構造の時間的変化の調査を先取りして行った。進行の順序に変化が生じたものの、時間変化については予定していた調査をほぼ終えることができたので、研究全体としては、おおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
進捗状況で述べたように、初年度の台風被害により、研究の進め方を変更せざるを得なくなった。具体的には、調査鉄塔等の設備をそれほど必要としない、葉分布構造と水利用特性の時間的変化に関する研究を先に進めることになった。次年度は、設備の復旧を継続しつつ、一時停止させた空間的変化の調査を進め、当初の研究計画通りの進行に復帰するように努める。
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