2019 Fiscal Year Annual Research Report
白色腐朽菌と共存細菌とのケミカル・トーキング~シグナル分子の解明と新機能発現~
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18H02257
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
亀井 一郎 宮崎大学, 農学部, 教授 (90526526)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 白色腐朽菌 / 共存細菌 / 微生物間相互作用 / 菌糸伸長促進物質 / 複合微生物系 / 環境浄化 / バイオリファイナリー / 木材腐朽 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、木材の主要な分解者である白色腐朽菌と、共存している細菌との相互作用メカニズムの解明と、人為的な複合微生物系構築による白色腐朽菌の機能強化を目的としている。相互作用のメカニズムについては、白色腐朽菌Stereum sp. TN4F株と、その菌糸伸長促進細菌Curtobacterium sp. TN4W-19株をモデルとして、細菌が分泌する白色腐朽菌菌糸伸長促進物質(シグナル物質)の探索を行った。菌糸伸長促進細菌Curtobacterium sp. TN4W-19株の培養液から酢酸エチル抽出画分を調製し、比較GC/MS分析により特異的な化合物を選抜した。選抜された化合物の標準品を用いて白色腐朽菌Stereum sp. TN4F株の菌糸伸長促進活性を調べたところ、4種の化合物について菌糸伸長促進活性があることを明らかにした。 一方、複合微生物系構築による白色腐朽菌の機能強化では、環境汚染物質分解能に優れる白色腐朽菌Phlebia breviporaと、その共存細菌Enterobacter sp. TN3W-14との液体培地での共培養により、多環式芳香族化合物(PAHs)、ネオニコチノイド系殺虫剤および人工染料の分解活性が高まることを明らかにした。また、他の白色腐朽菌や褐色腐朽菌と、バイオサーファクタント生産細菌であるRalstonia pickettiiの共培養を行うことで、難分解性環境汚染物質であるDDTの分解性を上昇させることに成功した。 さらに、セルロースから直接エタノールを生産可能である多機能型白色腐朽菌Phlebia sp. MG-60株と、ブタノール発酵性Clostridium属細菌を嫌気条件下で共培養することに成功し、セルロース基質から本共培養で直接ブタノールを生成することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画通り、白色腐朽菌の菌糸伸長を促進する物質の一部を同定することができた点で順調に進展していると考えている。一方で、細菌との直接共培養によって観察される菌糸伸長促進活性や菌糸形状の変化については、同定された化合物のみですべて再現できているわけではない(活性が微弱)ため、未同定の要素が存在するものと考えられる。この点についてさらなる検討を要する。 人為的複合微生物系の再構築による白色腐朽菌機能の強化については、現象として様々な化合物分解の促進や異種微生物間の代謝経路のシェアによる物質生産に成功しているため、順調に進展していると考える。一方で、嫌気性細菌と白色腐朽菌との共培養により、セルロース加水分解率が上昇するなど、多くの興味深い現象が確認されるものの、詳細な共存様式やメカニズムについてはさらなる検討を要する。
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Strategy for Future Research Activity |
白色腐朽菌と細菌との間で働くシグナル物質に関しては、同定されている化合物の白色腐朽菌への作用機序の解明が次の研究課題となる。化合物と接触した白色腐朽菌菌糸の遺伝子発現にどのような影響を及ぼすのか解明を進める。一方で、このシグナル物質は白色腐朽菌と細菌が非接触している状態でのコミュニケーションツールと考えられるが、細菌が白色腐朽菌菌糸に接触すると、さらに強い菌糸伸長促進活性がみられることがわかってきた。したがって、細菌と白色腐朽菌が接触した時にどのようなメカニズムで菌糸伸長の促進が行われるのか、解明を進める。一方で、なぜ細菌が白色腐朽菌の菌糸伸長を促進するのかという、細菌側の利益が未解明である。この点について、細菌の増殖や生理的応答への影響、また固体表面上の細菌の移動という観点から検討を進める。細菌と白色腐朽菌の複合微生物系の構築による白色腐朽菌機能の強化については、特にバイオマスの分解に着目し、セルロースの直接ブタノール発酵に成功した際に観察されたセルロース加水分解速度の上昇にヒントを得て、木材腐朽そのものにおける細菌共存の役割について、特に代謝のシェア(白色腐朽菌によるポリマー分解と、細菌による分解断片の代謝による除去)に着目して研究を進める。
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