2018 Fiscal Year Annual Research Report
A Comparative History of Postwar Agricultural Development Policy: Technology and Rural Society
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18H02290
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
足立 芳宏 京都大学, 農学研究科, 教授 (40283650)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 淳史 京都大学, 農学研究科, 准教授 (00402826)
大瀧 真俊 名城大学, 経済学部, 助教 (10781320)
菊池 智裕 福島大学, 経済経営学類, 准教授 (20639330)
安岡 健一 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (20708929)
名和 洋人 名城大学, 経済学部, 准教授 (50549623)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 農業史 / 農業開発史 / 戦後開拓 / 農業改良普及史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、20世紀中葉の日本および欧米において総合開発と科学技術への全面的傾倒のもとに国家主導により実施された農業・農村開発事業を対象に、その「画期性/連続性」のありようを、農業技術と農村社会開発の関わりに着目する観点から、農業基盤形成事業(ハード)と農業技術受容(ソフト)の二側面に即して歴史学に明らかにすることを目的とする。 青森県の上北パイロットファーム事業について、6月18日~21日、および10月25日~27日に現地にて入植者に対する聞き取り調査行った。(6月調査は足立が、10月調査亜は足立と研究協力者の野間万里子が行った)。その中間的な成果を『生物資源経済研究』(2019年3月)にて研究ノートとして公表した。 学会報告に関しては、2018年9月の韓国ソウル大学で開催された日中韓農業史学会国際大会にて、足立が西ドイツのエムスラント農村開発に関して、伊藤淳史が戦後アメリカの日本農産物市場開拓プログラムに関して、また研究協力者の小谷稔が植民地期朝鮮の農村振興運動に関して報告を行った。足立は類似のテーマで同年10月に政治経済学・経済史学会においても報告をした。また大瀧真俊が同年5月の社会経済史学会にて「戦時体制下の馬資源をめぐる軍・農の対立」と題する報告を、名和洋人が同年10月のアメリカ経済史学会にて「カリフォルニア州におけるアーモンド生産の発展」と題する報告を行った。さらに2019年3月開催の日本農業史学会では、徳山倫子(本科研で雇用した研究員)が戦間期日本の農村女子教育に関する報告を、同じく足立が戦後東ドイツの農村建設事業に関する報告を行った。 韓国に関して、2018年7月には、全北大学の蘇淳烈教授(京都大学客員教授)による関連講義を開催、「統一稲」に代表される1970年代の韓国の農業開発事業がいかに冷戦体制に強く制約されたものだったかを再認識することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は上記のように、本科研研究課題およびそれに関連する領域に関わって学会報告を非常に活発に行うことで、分析視点に関する議論を深めることができた。全体としては冷戦期という時代背景に対する切り込み、グローバル史の視点をより深化させることの必要性が認識された。また共同研究会を2回開催し、農業技術を制度化や基盤形成のみでなく、現場に即した実践過程としても捉える視点の重要性を確認した。 他方、情報収集のための現地資料調査・聞き取り調査も活発に行った。青森県上北機械開墾事業に関しては上記の入植者の聞き取りに加え、足立が2018年7月と2月に青森県立図書館において資料調査を行った。また米占領下の沖縄に関しては、森亜紀子(本科研で雇用した研究員)が、同年5月と9月の2回にわたり沖縄県公文書館および県立図書館にて米占領下での農業普及事業構想および農業試験場移転問題に関する資料調査を行った。さらに大瀧真俊が2019年2月に宮崎県で旧軍用地における戦後開拓に関する資料調査を、安岡健一が松本市(9月)と名古屋市(1月)において社会教育関係および青年サークル運動に関する資料調査を行った。 海外に関しては名和洋人が2018年8月にアメリカのYALE University、New York Public Library、University Californiaなどで戦後アメリカの農業資源開発に関する資料調査を、菊池智裕が同年11月下旬にドイツ・エアフルトの園芸博物館で東ドイツ園芸部門の文献調査を、足立が2019年3月にベルリン連邦文書館他で戦後東西ドイツの農村開発事業に関する資料調査を行った。また、韓国について、2018年9月に群山市の旧日本人移民の開拓入植地であった「不二農村」を現地訪問し、現状を知ることができた(足立・伊藤・小谷ほかが参加)。以上より初年度資料調査は順調に進行していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
現時点での研究成果を関連学会に積極的に問いかけ、新たな視点を得るために、2019年10月開催の政治経済学・経済史学会にて「農業開発の戦後史―冷戦期、国家主導の食糧増産プロジェクトの再検討―」というタイトルでパネルディスカッションを企画する。具体的には戦後の世銀借款による農業開発事業である根釧パイロットファーム事業、上北パイロットファーム事業、篠津泥炭開発事業に関する3報告に、戦後アメリカの農業開発事業を加えた4本の報告を軸に、コメントとして全北大学の蘇教授に韓国の「統一稲」開発の概要を報告してもらう予定である。とくに本科研で研究課題としていない篠津泥炭開発事業史については、当時、職員としてこの事業に関与していた平工剛郎氏(北海道歴史協議会会員)に報告を依頼し、快諾を得ている。これにより本共同研究の成果をより広い視野から位置づけることが可能となる視点が得られることを期待している。 基礎となる資料・文献収集や聞き取りを目的とする現地調査を引き続き行う。戦後日本の農業基盤形成事業については、これまでも戦後開拓に重なる酪農地帯を対象として、入植者等の聞き取りを行うことを主たる課題としてきた。今期も北海道および東北地方の現地調査を深化させるが、さらにこれらの比較参照事例として、新たに鳥取県の香取農場について現地調査を行う(足立と伊藤が担当。調査は9月頃を予定)。農業技術受容については、長野県の果樹園芸における地域社会の取り組みのほか、森亜紀子(本科研にて雇用する研究員)が沖縄県の農業普及事業の現地資料調査を重点的に行う。海外については、足立と菊池が東西ドイツについて、名和がアメリカについて引き続き資料調査を行う。 年2回に開催する共同研究では、各自の研究成果の検討のほか、冷戦期の農業開発をよりグローバルな視点からとらえる枠組みを模索することを課題とする。
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