2019 Fiscal Year Annual Research Report
積雪寒冷地における農業水利施設の新たな凍害検診技術と余寿命評価手法の開発
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18H02299
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
緒方 英彦 鳥取大学, 農学部, 教授 (90304203)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
兵頭 正浩 鳥取大学, 農学部, 准教授 (60611803)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 凍害 / 余寿命 / 気泡 / ひび割れ / エトリンガイト / 炭酸化 / 暴露試験 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では,積雪寒冷地において他に類を見ない特徴的な凍害が発生する農業水利施設の開水路を対象に,凍害の発生過程および発生位置を特定し,余寿命評価を定量的に行うための新たな指標を探索して定義することを目的としている。令和元年度は,積雪寒冷地の開水路側壁から採取したコアの分析,新たなコアの採取並びに自然環境下での長期間にわたる暴露試験を開始した。 前年度の研究成果として,EPMAによる元素の面分析結果から,側壁内部のひび割れ近傍にある気泡が硫黄およびカルシウムを主成分とする析出物で閉塞していることが確認され,この析出物はエトリンガイトであると推察した。そこで今年度は,開水路の側壁気中部から採取したコアに対して,EPMAによる元素の面分析を行うとともに,走査型電子顕微鏡(SEM)およびエネルギー分散型X線分光法(EDX),粉末X線回折法(XRD)の測定結果から,気泡およびひび割れを閉塞している析出物の特定を行った。その結果,気泡およびひび割れを閉塞している析出物は,結晶の形態および原子数濃度からエトリンガイトであることを明らかにした。また,気泡およびひび割れにエトリンガイトが生成したのは,ひび割れ周囲からのカルシウムイオンの溶脱と炭酸化領域からの硫酸イオンの移動が関係していると推察した。また,この結果を踏まえ,気泡およびひび割れを閉塞しているエトリンガイトの生成には,コンクリートの炭酸化が関係していると推察されたことから,同じ開水路の側壁気中部において,空気中に曝されない背面土に接する背面側を対象に新たなコアの採取を行った。コアの微視的検討は,次年度に取り組む予定である。 一方,気泡の閉塞過程を明らかにすることを目的として,自然環境下での長期間にわたる暴露試験を立案し,中国山地の岡山県真庭市に位置する鳥取大学農学部教育研究林において暴露試験を開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の目的である残存耐凍害性の評価による余寿命予測を達成するためには,凍害の発生過程および発生位置を特定することが大前提となる。そのためには,これまでの非破壊試験や採取コアによる力学的性状の評価だけではなく,微視的なコンクリート組織の変質に関する評価が必要となる。平成30年度は,採取したコアを対象に,主にEPMAによる元素の面分析からコンクリート組織の変質について考察を加えた。その結果,側壁気中部のコンクリートでは,凍結融解の繰返し作用で発生したひび割れを通して水が侵入し,ひび割れ周囲でカルシウムが溶脱していることを明らかにした。加えて,ひび割れ近傍の気泡内部に溶出したカルシウムが結晶化しており,閉塞した気泡が存在することが明らかになった。令和元年度は,前年度に得られた知見を踏まえ,気泡およびひび割れを閉塞している析出物の特定を行った。その結果,気泡およびひび割れを閉塞している析出物は,結晶の形態および原子数濃度からエトリンガイトであることを明らかにした。コンクリートの気泡間隔係数は,耐凍害性の確保において重要になるが,本研究により気泡そのものが変質するという知見が得られたことは,寒冷地におけるコンクリートの残存耐凍害性,引いては余寿命を評価する上で重要な知見が得られたと考えられる。そして,このような気泡の変質が生じる部材位置,環境条件を明らかにするために,新たなコアの採取を実施した。一方,気泡の閉塞過程を明らかにすることを目的として,中国山地の岡山県真庭市において暴露試験を開始することで,自然環境下におけるコンクリートの変質を長期的に評価するための準備を当初予定どおりに整えた。 このように,開水路に特徴的に発生する凍害の発生過程および発生位置を特定するための研究および暴露試験は当初予定どおりに進められており,本研究課題はおおむね順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究により,凍害が生じているコンクリートでは,耐凍害性の確保において重要になる気泡にひび割れが発生し,気泡がエトリンガイトにより閉塞していることが明らかになった。この気泡の変質は,コンクリートの凍結融解抵抗性の担保となる気泡間隔係数が実環境下で変化していることを表しており,構造部材としてのコンクリートの耐凍害性に影響を及ぼしていると考えられる。これまでの耐凍害性の評価は,凍結融解の繰返し作用によるひび割れの発生に基づく相対動弾性係数の変化,飽水度の変化により行われてきたが,本研究の知見として,新たに気泡分布の変化を加えるべきであることが明らかになった。また,気泡分布の変化のもととなる気泡の閉塞そのものが,余寿命評価における指標として有用であること思われることから,異なる開水路から採取したコアをさらに分析することで,気泡の閉塞現象が生じるメカニズム,気泡分布の変化過程を解明する。 一方,凍害劣化した構造物における補修と改築・更新の判定基準は定められていない。補修により耐久性の回復と向上を果たすことができる状態であるのかないのかの判断は,構造物の長寿命化対策において重要になる。ひび割れであるならば補修の対象になるであろうが,気泡を補修することはできない。最終年度は,気泡を指標とした補修と改築・更新の判定基準の構築についても取り組む。
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