2018 Fiscal Year Annual Research Report
A study on the decomposition of ethylene generated during transportation of agricultural products
Project/Area Number |
18H02305
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
白石 文秀 九州大学, 農学研究院, 教授 (90171040)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | エチレン分解 / 農産物輸送 / 光触媒反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度得られた研究実績の概要はつぎの通りである。 1)エチレンの極低濃度測定法の確立:空気中のVOC濃度は1ppm(1000ppb)を下回ると急に測定困難になる。しかし、エチレンはその濃度が1ppm以下でも農産物に影響を及ぼすので、エチレン濃度を少なくとも100ppbまで、可能であれば20ppbまで測定する方法の確立を目指して検討した。その結果、自動測定で50ppbまで、手動調節すれば20ppbを下回る極低濃度エチレンの定量が可能となった。 2)コーティング液調製法の確立:オートクレーブでの水熱反応を利用し、Pt、Pdを含むTiO2コーティング液調製法を確立した。これをガラス管表面に塗布した光触媒膜が安定に保持されること、ブラックライトからのUV照射によりエチレンを確実に分解することを確認した。 3)エチレン分解に適した光触媒担体の決定:活性炭粒子、ガラス粒子、シリカ粒子に光触媒を固定化し、これらをガラスビーカーまたはガラス管に充填してエチレンの分解性能を調べた。その結果、活性炭粒子ではエチレン吸着により実験開始直後に迅速な濃度低下が起こるが、光触媒分解はほとんど起こらないこと、シリカ粒子では定常的にエチレン分解が起こるが、その性能はガラスビーズに劣ること、これはシリカ粒子が空気中水分を吸着しやすく、これによりエチレン分解が阻害されることによること、ガラス粒子は水分吸着量が少ないため阻害の問題は小さく、このためTiO2固定化にはガラス質が適していることを見出した。 4)エチレン分解能の高い光触媒の開発:光触媒固定化担体として、水分吸着能が低い硬質ガラス管の有用性を見出した。併せてPtのみ、PtおよびPdを担持したTiO2の活性をTiO2のみの活性と比較し、これら金属の担持によりエチレン分解速度が増大することを見出した。実用性の観点から、以降はPtのみを用いることにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
上述のように、本年度掲げたすべての目標を達成することができた。これらの結果に基づき、さらに光触媒反応器を試作して反応実験を行った。 光触媒によるエチレン分解が空気中水分の影響を強く受けることがわかったため、紫外線ランプが発する熱を利用してガラス管表面温度を高くし、光触媒への水分吸着量を少なくする反応器の設計を行った。発生する熱は貯蔵庫内温度を増加させる恐れがあるため、ガラス管内表面に被覆した光触媒を、ガラス管外部に設置した光源により励起させることにした。このため、光源にはその紫外線(300-400nm)がガラス管を透過するブラックライトを使用した。熱をこもりやすくするため光触媒担体にはガラス製蛇管を用い、環の中心と外に複数の光源を配置した。 模擬実験として0.12m3のアクリル製角形容器内にリンゴ、バナナ、キュウリ、カボス、柿を1個ずつ入れ、光触媒反応器により9日間にわたる空気処理を行った。比較のため、無処理実験も行った。ここでは、リンゴから放出されたエチレンが他の農産物へ影響を与えることになる。結果として無処理のものでは、キュウリと柿の品質が著しく低下した。リンゴは甘みが完全に失われていた。一方、処理した場合、これらの農産物には品質の低下はほとんどなかった。バナナは市場でエチレンにさらされ、すでに熟成のスイッチが入っていたため、品質低下を押さえることができなかった。カボスは違いを判別しにくかった。処理、無処理の実験結果の違いはエチレン濃度の大きさによることがわかった。無処理の場合、エチレン濃度は9日後に2.7ppmまで増加したのに対し、処理した場合、実験期間中検出限界(20ppb以下)以下であった。 以上、本年度掲げた目標をすべて達成できたとともに、次年度に向けた反応器設計の方針が定まったことから、期待以上の成果を挙げることができたと判断する。
|
Strategy for Future Research Activity |
最終年度の実用化装置開発に向けて、つぎのような流れで実験と理論の両面から集中的な検討を行う。 1)これまでに確定した方法により調製したコーティング液を用いて複数のガラス管(直管および蛇管)の内表面を酸化チタン膜で被覆する。環状に並べた直管、または蛇管の中心にUV光源を設置した光触媒反応器を作製する。密閉された容器内に本反応器を設置し、所定の初濃度のエチレンを分解してエチレン濃度の変化を測定する。エチレン濃度は、購入したガスクロマトグラフで測定する。空気温度を変え、エチレン分解速度の大きさを検討する。密閉容器には、購入した温度制御が可能な陳列ケースを用いる。なお、空間内空気を採取できるように、ケースに穴を空けるなどの作業を行う必要がある。 2)空気温度一定の密閉空間に野菜または果物を、あるいはこれらを一緒に並べ、光触媒反応器により空気中に含まれるエチレンを分解する。このとき、農産物の性状およびエチレン濃度の時間変化を調べる。前者については写真撮影により記録し、同様の実験を密閉容器内の気温、農産物の種類や個数を変えて行う。 3)本実験により得られたエチレン濃度の時間変化データから数式モデル(微分方程式モデル)を構築する。処理空気量、気温が異なる場合でも反応器性能の予測ができるように、汎用性の高いモデルとして仕上げる。コンピューターシミュレーションにより光触媒反応器のエチレン分解能を明らかにする。エチレン濃度変化の実測値とシミュレーションによる計算値の比較を行い、数式モデルの性能を向上させる。 以上の結果を受けて、エチレンの分解性能をさらに高めるため装置改良を行う。また、結果を国際学会や国内学会で公表するとともに論文として報告する。
|
Research Products
(6 results)