2020 Fiscal Year Annual Research Report
原因蛋白質の生物種差解析による神経変性疾患の病態解明
Project/Area Number |
18H02338
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
チェンバーズ ジェームズ 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (00621682)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
内田 和幸 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (10223554)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | tau / α-synuclein / アルツハイマー病 / パーキンソン病 / 神経病理 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)動物における加齢性神経変性疾患の研究 高齢イヌはβアミロイド(Aβ)が老人斑を形成するがタウ蛋白質の蓄積はみられない、一方で高齢ネコは老人斑の形成は見られないがタウ蛋白質が蓄積する。本研究では、鰭脚類の脳において加齢性にAβおよびタウ蛋白質が蓄積することを発見し、その病態を解析した。鰭脚類のAβはヒトおよびイヌと相同であり、ネコのAβは1アミノ酸残基異なることが分かった。また、鰭脚類の脳ではタウ蛋白質のアイソフォーム(3-repeat/4-repeat)が発現しており、これらのアイソフォームが神経細胞内で凝集し、ヒトのアルツハイマー病でみられる神経原線維変化を生じることを明らかにした(Acta Neuropathol Commun. 2021)。鰭脚類とイヌは、それぞれネコ目のクマ下目およびイヌ下目に分類される。すなわち、これらの動物種は進化の過程で、神経変性疾患の原因蛋白質の多様性が生じたと考えられた。 (2)動物における遺伝性神経変性疾患の研究 猫のニーマンピック病について論文発表した(Vet Pathol. 2020)。また、猫の遺伝性海綿状脳症の病態を解析し、その原因となる遺伝子変異を確認し(ASPA c.859G>C)、病理学的にヒトのカナバン病と対応する病態であることを明らかにした(Vet Pathol. 2021)。 (3)異なる動物種および蛋白質間における異常蛋白質凝集の相互作用の研究 ヒトの変異型タウ蛋白質を過剰発現するマウス(rTg4510)の脳において、マウスの野生型αシヌクレインが凝集することを発見し、そのメカニズムを解析した。その結果、リン酸化酵素GSK-3βの活性化が、タウ蛋白質とαシヌクレインの相互作用に関与し、これらの蛋白質の凝集を促進するする可能性が示唆された(Acta Neuropathol Commun. 2020)。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
(1)動物における加齢性神経変性疾患の研究 高齢の鰭脚類(アシカ、アザラシ、セイウチ)の脳を解析することができたことにより、ネコ目に属する動物(鰭脚類、イヌ、ネコ)における脳の加齢性変化について広く比較することが可能になった。これにより、動物種ごとのAβのアミノ酸配列およびタウ蛋白質のアイソフォームを比較し、加齢性病変との関連性を示すことができた。 (2)動物における遺伝性神経変性疾患の研究 猫の遺伝性神経変性疾患について、2つの疾患の原因遺伝子を明らかにし、ヒトの対応する疾患と病理学的に比較することができた。これまで蓄積した症例のホルマリン固定脳サンプルから遺伝子を抽出し、PCRおよびシークエンス解析が可能であったため、効率よく研究を進めることができた。 (3)異なる動物種および蛋白質間における異常蛋白質凝集の相互作用の研究 マウスを用いた実験が予定していたよりも時間がかかっていたが、これまでの研究結果をまとめて論文を投稿することができた。以上のことから、(1)、(2)については大幅に研究を進めることができた。また、(3)については、ある程度は遅れを取り戻すことができた。すなわち、全体的には当初の計画以上に研究が進展した。
|
Strategy for Future Research Activity |
(1)動物における加齢性神経変性疾患の研究 高齢のネコ目の動物(イヌ、ネコ、鰭脚類)の脳におけるタウ蛋白質のオリゴマーを組織標本上で観察し、GSK3βなどのリン酸化酵素の局在と比較することで、それぞれの分布の関連性を調べる。また、組織から抽出した蛋白質の可溶性および不溶性画分のタウ蛋白質の凝集性を確認することにより、神経原線維変化の前段階(オリゴマー形成)を捉え、動物種ごとの発現アイソフォームの違いとタウ蛋白質の凝集性の関連性を調べる。比較対照として、(3)のヒト変異型タウ蛋白質を過剰発現するマウス(rTg4510)および(2)と並行して類人猿を含めた霊長類の脳サンプルについても合わせて比較検討することで、これまでの研究を統合する。 (2)動物における遺伝性神経変性疾患の研究 現在、類人猿の遺伝性神経変性疾患について、その原因と考えられる候補遺伝子を解析している。今後、正常コントロール個体の脳サンプルを収集し、当該遺伝子の変異が病態形成に関与しているか確認する。また、その他の動物種における遺伝性神経変性疾患についても、並行して研究する。 (3)異なる動物種および蛋白質間における異常蛋白質凝集の相互作用の研究 GSK3β以外のリン酸化酵素について、αシヌクレインおよびタウ蛋白質の共凝集に与える影響をモデルマウスを用いて解析する。さらに、それらのリン酸化酵素に着目し、(1)でタウ蛋白質の凝集がみられた動物において、なぜαシヌクレインの凝集が見られないのかについて原因を探索する。
|