2018 Fiscal Year Annual Research Report
野生鳥類の非侵襲的抗体検出法を用いた鳥インフルエンザウイルス国内侵入リスク評価
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18H02346
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
伊藤 壽啓 鳥取大学, 農学部, 教授 (00176348)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 高病原性鳥インフルエンザ / 野生水禽類 / 糞便抗体 / 非侵襲性 / インフルエンザウイルス |
Outline of Annual Research Achievements |
高病原性鳥インフルエンザウイルスが冬の渡り鳥であるカモ等の野生水禽類によって国内に持ち込まれている可能性が指摘されている。したがって、それらの鳥のウイルス保有状況とともに、免疫状態の把握もまた本病の国内侵入を予測するために重要な情報と考えられる。しかし、 国内野鳥を対象とした本病の血清疫学調査を実施するためには、まず対象となる野鳥を捕獲し、採血をする必要がある。それには多くの労力と 特殊な技術を必要とし、とくに希少種や捕獲が困難な鳥種の調査には適さない。そこで、本研究ではまず、鳥類の腸管内の分泌型IgAに着目し 、糞便から、本ウイルスに対する特異IgA抗体を検出するという極めて非侵襲的な方法を確立ことを目的とした。(1)初年度はまず、カモの糞便に由来する鳥インフルエンザウイルス特異IgA 抗体を検出するための、酵素標識免疫固相法(ELISA 法) を確立するために、アイガモを用いて感染実験を実施し、感染後7, 10, 14 日目の糞便を採取した。感染実験に用いたウイルス 株はH3 亜型鳥インフルエンザ ウイルスA/duck/Hokkaido/5/1977 (H3N2)である。(2)市販の抗カモIgA抗体にペルオキシダーゼを標識し、標識2次抗体を作製した。(3)感染実験に用いたウイルス株をELISA抗原とし、糞便中の特異IgA抗体の有無をELISA法で確認した。(4)カットオフ値の設定は生後2日以内の雛の糞便7検体を用いて同様のELISA法で得られたOD値の平均と標準偏差を求め、平均値と2倍の標準偏差を足した値をカットオフ値に設定した。その結果、H3ウイルス感染アイガモの7日目および14日目の糞便材料において有意なIgA抗体価の上昇を認めた。以上の成績から、カモの糞便中のIgA抗体検出ELISA法は簡便且つ高感度なカモの抗体検出法として、ほぼ確立されたものと考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、感染実験によって得られた感染アイガモの新鮮糞便を用いて、カモの糞便に由来する鳥インフルエンザウイルス特異IgA 抗体を検出するための、酵素標識免疫固相法(ELISA 法) を確立したのち、北海道北部および山陰地方に飛来する渡りガモの糞便(各々200検体以上)中の鳥インフルエンザウイルス特異IgA抗体を検出する予定であったが、調査時の悪天候等の影響により、実際には合計70検体程度の野外糞便材料しか収集できなかった。しかしながら、今回確立したELISA法によりそれらを検査したところ、2検体の陽性例が認められた(陽性率3%)。この数値は過去に我々が実施した渡りカモの血清抗体陽性率と比較してもほぼ同程度であり、妥当と判断されることから、本調査結果も本ELISA法がほぼ確立されたことを支持するものと考えられた。 以上のことから、本件課題は概ね順調に進展しているものと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の通り。不足分の野外検体材料(カモ糞便)については、さらに来シーズンの調査で新鮮糞便材料を追加収集し、遅くとも研究終了時(最終年度)までには補足データとして加えることができる見通しである。 さらに次年度の計画では次のステップとして、カモ以外の鳥種(特に希少種や捕獲が困難な鳥種)の糞便由来IgAを検出する目的で、抗カモIgA2次抗体を用いずに、糞便中の鳥インフルエンザ ウイルス特異IgAを検出する方法として、ELISA競合法を確立する計画である。このため、次年度はさらに遠方の調査地で、野外糞便材料の採取が必要となることから、事前に十分な情報収集(採取場所や時期について、現地の専門家から情報を収集)した上で、調査に望むことを計画している。 一方、万が一ELISA競合法の確立に十分な結果が得られなかった場合には、カモ以外のいくつかの鳥種の胆嚢(例えばマガンの代用種としてガチョウ)を入手し、そこからIgAを抽出精製して、それぞれの鳥種の抗IgA抗体の作出も試行したいと考えている。
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