2018 Fiscal Year Annual Research Report
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18H02352
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Research Institution | National Institute of Infectious Diseases |
Principal Investigator |
酒井 宏治 国立感染症研究所, ウイルス第三部, 主任研究官 (70515535)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 急性呼吸器ウイルス / ウイルス膜蛋白質 / 開裂 / 宿主プロテアーゼ / 病原性 / 宿主域 |
Outline of Annual Research Achievements |
オソクミクソウイルスやパラミクソウイルスの呼吸器ウイルスの感染性獲得には、ウイルス膜蛋白質が宿主プロテアーゼにより蛋白質分解性の修飾(開裂)過程が必須である。最近、HA開裂部位がmono-basicなインフルエンザAウイルス(IAV)A/H1N1、A/H3N2、A/H7N9のHA蛋白質の開裂には、宿主のセリンプロテアーゼTMPRSS2が必須の酵素であることを証明した(ただし、A/H3N2では研究グループにより異なる)。 本申請では、オソクミクソウイルスのA/H3N2やパラミクソウイルスのパラインフルエンザウイルス(PIV)やセンダイウイルス(SeV)、メタニューモウイルス(MPV)について、TMPRSS2が病原性発現に必須の宿主因子であるかを検証し、生体内でのTMPRSS2によるウイルス膜蛋白質開裂は、呼吸器感染症の共通原理かどうかを明らかにする。共通原理が存在するのであれば、TMPRSS2特異的阻害剤が、IAVだけでなく、パラミクソウイルスにも有効で、急性呼吸器ウイルスの広域スペクトルの新規治療薬となり得る。また、生体内でも有効なTMPRSS2特異的阻害剤の開発のため、TMPRSS2によるウイルス膜蛋白質の開裂場所の特定を試みる。更に、TMPRSS2の遺伝子発現の質的・量的なちがいが、ヒトIAV患者の発症や重症化に関与する研究が報告されているので、本申請では、ヒトでは実施できなかった詳細な解析を、IAVやSeVにおいて、感受性の異なる複数のマウス系統を用いて実施し、ウイルス感受性とTMPRSS2遺伝子発現の科学的関連性の解明を試みる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
i) マウスパラインフルエンザウイルスでのTMPRSS2依存性の検証:マウスを宿主とするマウスパラインフルエンザウイルス(SeV)5株を用いて、TMPRSS2が病原性発現に関わる主要な宿主因子であることを明らかにした。 ii) 変異型H3N2 IAVでのTMPRSS2依存性の検証:季節性H3N2については、HA stalk領域でHA開裂部位近傍の1アミノ酸変異による糖鎖欠失により、TMPRSS2依存性から非依存性になる(TMPRSS2遺伝子欠損マウスでHA開裂が起こり、致死的な病原性を示すようになる)ことを明らかにした。しかし、近年の季節性H3N2において、その糖鎖欠損はほとんど報告されていない。一方、北米豚系統を由来とし、季節性H3N2とは異なる抗原性の変異型H3N2では、その糖鎖欠損が高度に保存されていた。変異型H3N2のTMPRSS2依存性の解析では、低効率ながらTMPRSS2遺伝子欠損マウスでHA開裂が認められたが、致死的な病原性は全く示さなかった。したがって、糖鎖欠損によるTMPRSS2依存性はH3N2の共通原理ではなく、TMPRSS2は、季節性H3N2と同様に、変異型H3N2 IAVの病原性発現因子であると考えられた。 iii) TMPRSS2遺伝子欠損ICRマウスの作出:PIVとMPVについては、TMPRSS2遺伝子欠損マウスのバックグランドであるC57BLマウスへの感受性が非常に悪いため、詳細な解析を実施することができなかった。そこで、PIVやhMPVでの感受性が報告されているICRマウスを用いて解析するため、ICRマウスバックグランドのTMPRSS2遺伝子欠損マウスの作出を行った。TMPRSS2遺伝子欠損C57BLマウスを用いて、ICRマウスへの戻し交配を10回実施することでTMPRSS2遺伝子欠損ICRマウス系統を確立する(現在も実施中)。
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Strategy for Future Research Activity |
i) マウスパラインフルエンザウイルスでのTMPRSS2依存性の検証:培養細胞においてF蛋白質の開裂を検出可能な抗体を用いても、マウス感染肺でのF蛋白質の開裂を検証することは出来なかった。今後、異なる抗体や免疫沈降反応等を用いて、マウス感染肺でのF蛋白質の開裂検証を試みる。 ii) 変異型H3N2 IAVでのTMPRSS2依存性の検証:糖鎖欠損を有する変異型H3N2 IAVが、季節性H3N2と同様に、TMPRSS2遺伝子欠損マウスの連続継代により、プロテアーゼ指向性の変化が認められるか検証を試み、変異型H3N2 IAVでのTMPRSS2利用に関するアミノ酸レベルでの分子メカニズム解明を試みる。H3N2 IAVのTMPRSS2依存性は研究グループにより異なる。各研究グループとも、かなり古い分離株を利用していることから、近年の季節性H3N2 IAVのTMPRSS2依存性の検証を合わせて実施し、TMPRSS2が病原性発現に関わる共通原理がどうか検証を試みる。 iii) TMPRSS2遺伝子欠損ICRマウスの作出:継続して、ICRマウスへの戻し交配、10回を実施する。TMPRSS2遺伝子欠損ICRマウス系統が確立出来次第、マウス感染実験により、PIVとMPVのTMPRSS2の検証を試みる。
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Research Products
(11 results)