2018 Fiscal Year Annual Research Report
母性パイオニア転写因子Gataによる胚性発生プログラムの開始機構
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18H02376
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
今井 薫 (佐藤薫) 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (00447921)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 転写制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
動物胚の胚性のゲノムからの転写開始は、卵内に蓄えられた母性転写因子によってはじめられる。ショウジョウバエのZeldaやゼブラフィッシュのOct5、SoxB1などがこの例として挙げられる。これらの転写因子はパイオニア転写因子として知られ、凝集したクロマチンに結合して弛緩させ,他の転写因子などをリクルートする働きを持つ。最近の私達の予備実験の結果から、脊索動物であるホヤの胚では、Gata.aが母性のパイオニア転写因子として胚性ゲノムからの転写開始に関わることが明らかになってきた。さらに、最も初期に胚性ゲノムから発現する遺伝子のうち、動物極で発現する遺伝子群と植物極で発現する遺伝子群ではGata.aによる転写開始機構が異なることも明らかになりつつある。ホヤの胚は、最も初期に発現する遺伝子が、どの細胞で、いつ、どのような機構で発現するのか、が正確にわかっているユニークな実験系である。この特徴を生かして母性因子から胚性ゲノムによるコントロールへの移行の過程の分子機構を明らかにする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ホヤ胚では、8~16細胞期に胚性のゲノムからの遺伝子発現が始まる。この最も初期に発現する遺伝子のほとんどは、次の3つのパターンのいずれかで発現することがわかっており、母性因子による詳細な調節機構も明らかにされている。 ・植物極側全体(Foxd, Fgf9/16/20など):母性因子であるβ-cateninが16細胞期の植物極側の核に局在し、Tcf7転写因子とともにこのグループの遺伝子の発現を活性化する ・植物極側後方(Tbx6.bなど):母性因子β-cateninと後方に局在するZic-r.a(Macho-1)による組み合わせが、このグループの遺伝子の発現を活性化する ・動物極側全体(Tfap2-r.b, Ephrina.dなど):母性因子Gata.によって制御される。 以前の研究ではGataは動物極側で発現する遺伝子にのみ必要であり、植物極側で発現する遺伝子には不要とされていた。しかしGata抗体を用いたクロマチン免疫沈降-シーケンシング(ChIP-seq)解析によると最も初期に発現する遺伝子群の上流のほとんどにGataが結合することが示唆された。そこでこれら3つのパターンで発現する遺伝子の上流解析を行いGata結合モチーフがその発現に必要であることを示した。さらにGataタンパク質のノックダウン実験により、これら3つのパターンで発現する遺伝子の発現が減少することをリアルタイムPCR解析などによって確かめた。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの進捗状況で述べたように、16細胞期で発現する遺伝子群の上流解析とGataタンパク質のノックダウン実験により、Gataが16細胞期で発現する遺伝子群の転写に必要であることが明らかになった。しかしGata mRNAを過剰発現した胚で16細胞期で発現する遺伝子群を誘導できないことから、Gataのみでは遺伝子を発現させるのに十分ではないことも明らかになった。そこで今年度は、16細胞期の遺伝子群を発現するのに必要なGataを含めた最小の母性転写因子のセットを探索し、その母性転写因子のセットを分化した細胞に異所的に発現させることにより、16細胞期で発現する遺伝子群を発現させることができるかどうか検証する。
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