2018 Fiscal Year Annual Research Report
時分割X線結晶構造解析を駆使したF1-ATPaseの回転力発生過程の解明
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18H02409
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
鈴木 俊治 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 特任教授 (60618809)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | F1-ATPase / X-ray crystallography / motor proteins |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでに申請者は、ウシF1-ATPase(以後F1)の静的なX線結晶構造解析システムと動的なX線結晶構造解析システムの確立を行い、様々な酵素反応中間体構造の入手を行ってきた。これまで結晶成長後に反応生成物であるリン酸(実験ではチオリン酸)を導入もしくは除去し、蛋白質の構造変化を分析していたが、一昨年の研究によりADPでも同様に結合解離による構造変化を分析できることが判明した。2019年度はADPやリン酸さらにはマグネシウムイオンの触媒部位での共同的な構造変化を、様々な手法を駆使して詳細に分析した。 ADP解離中間体構造の分析では、ヒンジ構造の変化を伴う触媒部位の大きな構造変化が観測されたが、触媒部位の電子密度は、今までに得られた中間体構造の混合構造では説明が困難であるものも得られた。この領域はADPとMgとリン酸(実験ではチオリン酸)が3者複合体を形成している部分であり、触媒反応やその前後の遷移状態を何らか示している可能性があり非常に興味深い。またこれまでに入手した反応中間体の結晶構造から触媒サブユニットを取り出し比較分析した結果、ATP結合→ATP cleavage→ADP解離→リン酸解離の過程で、触媒部位サブユニットはATP結合による大きな収縮と、加水分解後に段階的に開いていくことが判明し、F1の回転力発生機構を考える上で非常に興味深い。 また2019年度では、世界で初めてヒト由来F1の結晶構造とその反応中間体を決定することに成功した。興味深いことに、ヒトF1とウシF1からは対応する中間体構造が得られたが、両者間で結晶中での分子間のコンタクト部位は少し異なるが、両構造の回転子は近い回転角度であった。この結果は、これまでに得られたウシF1の中間体構造は、結晶中の分子間相互作用の安定性のみにより得られたのではなく、F1の酵素反応中過程上の安定構造である事を示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画していた酵素反応生成物であるADPとリン酸(実験ではチオリン酸)の解離の中間体を予定通り多数入手し、ATP結合・加水分解・ADP解離・リン酸解離過程における連続的な構造変化を、概ね明らかにすることができた。またADPとリン酸とマグネシウムイオンの共同的な構造変化も明らかになり、ATP加水分解直後に触媒部位で起きている事を高分解能の3次元原子座標で示せた事も、成果としては大きいと考えられる。さらに、世界で初めてヒトF1やその反応中間体の結晶構造を明らかにしたことは、今後本研究を含めたこれまでの膨大なF1-ATPaseに関する知見を、我々ヒトの研究に還元できるという意味でも大きいと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題で確立したウシとヒトの静的・動的なX線結晶構造解析システムは、酵素反応機構の解明に非常に有効であると考えられる。当初想定していた以上に、その反応機構やそれを引き起こす蛋白質構造の変化が明らかになった。そこで今後は、本研究課題で解明されつつある酵素反応素過程を、これまでに得られた解説データーや得られた結晶構造を更に詳細に解析することにより、可能な限り明らかにしていく。そしてATPase酵素反応全体のターンオーバー中に、触媒部位や酵素ドメイン単位、サブユニット単位、酵素全体で何が起きているのかを分析することにより、今まで測定が困難で謎であった分子機構が明らかになっていくと考えられる。
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Research Products
(9 results)