2019 Fiscal Year Annual Research Report
細胞内Hippoシグナルによる免疫システムの制御機構とその生理機能の解明
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18H02438
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
諸石 寿朗 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 教授 (30647722)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | Hippoシグナル / 免疫応答 / 免疫原性 / 自己免疫疾患 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究では、Hippo細胞内シグナルが免疫応答を制御する分子メカニズムを解明する目的で、Hippo経路の下流で免疫応答を制御する分子をCRISPRによる遺伝学的スクリーニングによって探索した。その結果、細胞内小胞輸送に関わる一連の分子が細胞内Hippo経路による免疫応答の制御に関わる可能性を見出した。スクリーニングで同定された候補分子をそれぞれ個別に確認実験したところ、実際にいくつかの小胞輸送関連タンパク質の機能がHippo経路によって直接的に制御されることを見出した。一方、野生型細胞とHippo変異細胞を比較したRNA-seq解析によりインターフェロン応答関連遺伝子の発現変化が免疫応答性に関与する可能性が示唆されたが、一連の実験結果から、その制御は直接的ではなく間接的なものであることが分かった。また、Hippo経路による免疫応答制御の生物学的意義をマウス個体で解析するために、条件特異的にHippo経路の中心キナーゼであるLATS1/2を欠損するマウスを作出した。また、LATS1/2を欠損させHippo経路を阻害した正常マウス線維芽細胞をマウスに移植する実験を行ったところ、Hippo経路を阻害した正常細胞がマウスにおいて宿主の免疫応答を誘導することを見出した。加えて、Hippo経路を阻害する薬剤を用いてマウスがんモデルでの治療実験を行ったところ、一定の治療効果が得られることを見出した。これらの研究成果をふまえ、Hippo経路と免疫応答との相互作用やその治療応用への可能性に関して論文や学会での発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、「1. Hippo経路が免疫系を制御する分子メカニズムの解明」、「2. Hippo経路と免疫系の相互作用が織りなす生命現象の解明」、「3. Hippo経路を標的とした治療法の開発」に取り組んでいる。 1.に関しては、昨年度までにインターフェロン応答関連遺伝子の発現変化が免疫応答性に関与することを野生型細胞とHippo変異細胞を比較したRNA-seq解析により見出した。本年度はこれらのインターフェロン応答関連遺伝子がHippo経路によって直接的に発現制御を受けるか検討したが、一連の実験結果から、その制御は直接的ではなく間接的なものであると考えられた。また、本年度はHippo経路の下流で免疫応答を制御する分子をCRISPRによる遺伝学的スクリーニングによって探索し、細胞内小胞輸送に関わる一連の分子が細胞内Hippo経路による免疫応答の制御に関わる可能性を見出した。個別の確認実験を行ったところ、実際にいくつかの小胞輸送関連タンパク質の機能がHippo経路によって直接的に制御されることを見出した。 2.に関しては、条件特異的にHippo経路の中心キナーゼであるLATS1/2を欠損するマウスの準備が整いつつある。さらに、LATS1/2を欠損させHippo経路を阻害した正常マウス線維芽細胞をマウスに移植する実験を行ったところ、Hippo経路を阻害した正常細胞が、マウスにおいて宿主の免疫応答を誘導することを見出した。 3.に関しては、昨年度までに選定した一つのHippo経路阻害化合物を用いてマウスがんモデルでの治療実験を行ったところ、一定の治療効果が得られることを見出した。また、Hippo経路の構成因子と蛍光タンパク質の融合タンパク質を作出し、この融合タンパク質の分解を指標にHippo経路の活性を調べる方法を試したが、細胞内Hippo経路の活性を鋭敏に反映することができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は本年度より引き続きメカニズムの解明を試み、解明したメカニズムをマウスでの個体実験で検証することを目標にする。 1.に関しては、これまでの結果から、Hippo経路は細胞内小胞輸送を直接制御すること、インターフェロン応答関連遺伝子の発現変化を間接的に引き起こすこと、宿主の免疫応答を誘導すること、という3つの実験結果が明らかになっている。これらを繋ぐ階層性を解明することがメカニズム解明の鍵となるが、現時点では「Hippo経路が細胞内小胞輸送を制御することで、(何らかのメカニズムにより)核酸応答によるインターフェロン経路の活性化を引き起こし、これにより宿主の免疫応答が誘導される」という仮説をもとに研究を進めている。この細胞内小胞輸送と核酸応答の繋がりに関して、培養細胞を用いた細胞生物学・生化学的解析により検証を進めていく。 2.に関しては、Hippo経路の変化により宿主の免疫応答が誘導されるマウスモデルを作出できたため、1のメカニズム解明で挙がってきた候補分子の関与を本実験系で検証する。 3.に関しては、一部のHippo経路阻害化合物がマウスがん治療に有効であることが示されたことから、一定の成果が得られたものと考えているが、引き続き他の方法によりHippo経路のレポーターシステムの改良を試みる。本年度はHippo経路の構成因子と蛍光タンパク質の融合タンパク質の分解を指標にする方策を試み失敗したため、次年度はHippo経路によるタンパク質のリン酸化を指標にしたレポーターシステムを検討する。
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Research Products
(7 results)