2018 Fiscal Year Annual Research Report
交尾受容性の進化メカニズムから解き明かす普遍的な性的対立
Project/Area Number |
18H02507
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松尾 隆嗣 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (70301223)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | Drosophila prolongata / テナガショウジョウバエ / 交尾受容性 / 交尾頻度 |
Outline of Annual Research Achievements |
メスの交尾受容性は、性選択においてオスの形質の進化を左右する一方、それ自身は自然選択の影響下にあり、それゆえ生物進化のかなめとなる形質である。交尾受容性の進化は様々な対立関係を引き起こす。しかしながら、メスの交尾受容性を制御する至近的メカニズムが全く分かっていない。これはオスの形質の多様性をもたらす遺伝的メカニズムが多数明らかになっていることと比べると憂慮すべき状態である。本研究では、メスの交尾受容性の進化をもたらす至近的メカニズムを明らかにすることで、主として交尾頻度をめぐる性的対立の存在を実験的に証明する。 本研究で用いるテナガショウジョウバエは、交尾頻度をめぐってオス側・メス側の双方で特異的な進化が起こっていると考えられる種である。本年度は、大きく分けて以下の2点について研究を行った。 1.メスの交尾受容性を制御する遺伝子座の探索 テナガショウジョウバエのメスは、一般的に他のショウジョウバエと比較して交尾受容性が低い。しかしながら系統によっては極めて容易に交尾を受け入れるものがいる。この系統間差をもたらす原因遺伝子座は交尾頻度をめぐる静的対立の進化において重要な役割を果たしていると考えられるため、その特定を目指して遺伝学的な解析を行った。その結果、メスの受容性は第3染色体右腕に座上するほぼ単一の遺伝子座によって制御されていることが分かった。 2.再交尾をめぐる静的対立と種特異的な求愛行動の進化 一般に、既交尾メスは一定期間の不応期が生じ交尾受容性が下がることが知られている。これにより交尾頻度が低下することになるため、不応期の長さは性的対立に基づいたせめぎあいにより動的に進化すると考えられる。テナガショウジョウバエに特異的な求愛行動がこの不応期を打破する機能を持っており、交尾頻度をめぐる性的対立から進化した可能性があることを発見した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
メスの交尾受容性を制御する遺伝子座について、その数と染色体上の位置を大まかに特定することができた。特に、その数がごくわずかと考えられることは今後の研究の進展にとって有利に働くものと期待できる。また、テナガショウジョウバエに特異的な求愛行動が初回交尾時ではなく再交尾時に必要であることを発見できた。これは性的対立に基づく交尾頻度の進化について大きな手掛かりを得たことになると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
メスの交尾受容性を制御する遺伝子座については、染色体上に分子マーカーを設定するとともに、交尾受容性の異なる組み換え系統群を作成して原因遺伝子座の位置を探索する。またテナガショウジョウバエに特異的な求愛行動と交尾頻度の進化に関しては、本種における不応期の長さを明らかにするための実験を行う。
|
Research Products
(13 results)