2019 Fiscal Year Annual Research Report
記憶をつくるシナプス・細胞集団の光技術による可視化と動態解析
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18H02527
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
川口 真也 京都大学, 理学研究科, 教授 (00378530)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | シナプス可塑性 / 軸索 / IP3受容体 / 活動電位 / 伝達物質放出 / 小脳 / プルキンエ細胞 / イメージング |
Outline of Annual Research Achievements |
動物の記憶・学習を実現する神経回路の機能変化の実体は、未だに良く分かっていない。本研究では、動物の運動制御を担う小脳に焦点をあて、申請者が独自開発を続けている学習の細胞基盤であるシナプス可塑性を検出する蛍光プローブと細胞膜電位の蛍光イメージングを組み合わせる。そして、シナプス可塑性がいかに個々の神経細胞の情報処理を変化させ、それが神経回路レベルでどのような演算変化を生み出すかを明らかにすることを目指す。最終的に、記憶のメカニズムを分子・細胞レベルから神経回路レベルまで階層縦断的に理解することが本研究の目的である。 昨年度までに確立した高精細な膜電位感受性蛍光タンパク質を用いた神経活動の高速蛍光イメージングを駆使し、本年度は小脳プルキンエ細胞の情報出力部位である軸索・終末の新規長期可塑性を見出した。そしてその分子メカニズムが、プルキンへ細胞へのシナプス入力の可塑性誘導と共通の仕組みを介していることを突き止めた。さらに、この軸索での長期可塑性により単一神経細胞における情報処理に多様なパターンが生成され、計算能力の飛躍的向上につながる可能性が示唆された。この新しい仕組みが、いかに小脳神経回路において運動学習の実現に寄与するかについて、将来的に明らかにする試みの端緒として、この可塑性の発現を操作可能な分子標的の探索を進めている。 一方でプルキンエ細胞は、樹状突起だけでなく情報出力部位の軸索でも多量に細胞内IP3受容体の発現が認められるが、その役割は不明であった。そのはたらきについての生理学的研究を行い、IP3受容体を介する細胞内Caシグナルが、軸索での活動電位発火の起こりやすさを調節すること、および軸索終末からの伝達物質放出に寄与することを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究で明らかにしてきたプルキンエ細胞の軸索・終末部で起こる長期可塑性は、神経細胞での情報処理様式について画期的な新概念を打ち立てる可能性がある新しいタイプのメカニズムである。その分子機構や機能的役割の理解を順調に進め、運動学習の基盤となる小脳神経回路の情報処理の柔軟性を理解する上で有用な知見が得られている。また、小脳長期抑圧を可視化する蛍光プローブ分子については、AAVベクターを改良することでこれまでより遥かに高いS/N比を達成することに成功し、分散培養のみならずスライス培養でも良好なシグナルを得て、動物個体への適用が視野に入る段階となってきた。したがって、研究計画はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までに見出した軸索終末での長期可塑性の機能的役割について、膜電位イメージング及び直接パッチクランプ記録を駆使して明らかにすることを計画している。そして、その新規可塑性が神経回路の情報処理に及ぼす影響について、理論的な検討も行う計画である。 一方で、格段に高S/Nを達成した長期抑圧を検出する蛍光イメージングプローブについて、スライス培養や動物個体への適用を進めるとともに、赤外光の蛍光タンパク質との融合版も作成して緑蛍光の膜電位イメージングと同時適用する系を確立する。以上から、運動学習の基礎となる神経細胞の様々な可塑性の時空間動態の理解を統合的に深化させたいと考えている。
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