2018 Fiscal Year Annual Research Report
Auditory experience dependent neuronal circuit formation, regulating zebra finch song learning.
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18H02531
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
杉山 陽子 (矢崎陽子) 東京大学, ニューロインテリジェンス国際研究機構, 特任准教授 (00317512)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 歌学習 / 臨界期 / 記憶 / 可塑性 / 聴覚 |
Outline of Annual Research Achievements |
歌を学習するトリ、ソングバードの一種であるキンカチョウは成長期に聴く成鳥の歌を覚え、これを模倣することで歌を学習する。この時、キンカチョウのヒナは生得的に存在する自身の種の歌を聴き分け、これを選択的に学習し、その種に共通する歌の特徴を保ちながら、個体に特有の歌を発達させる。しかしキンカチョウの歌であっても、スピーカーから流れる唄を受動的に聴いてもこれを学習することはせず、親との社会的相互作用のなかで歌を聴くことにより、歌学習は強化される。本研究ではこのキンカチョウの歌学習をモデルとして用い、ランダムに降り注ぐ聴覚刺激の中から特定の聴覚情報、自身の種の歌を聴き分け、これだけを選択的に学習する神経メカニズム、また社会的相互作用の中から特定の聴覚刺激にのみ注意を払うことで、得意の刺激のみを選択的に学習する神経メカニズムを明らかにすることを目的とした。 研究代表者の研究室ではこれまでの研究から、キンカチョウの歌における種の特異性は歌の空白のテンポパターンにコードされていること、脳内の第一次聴覚野にはこの歌のテンポと、学習によって獲得する歌の音響構造をそれぞれコードする二つの異なる神経細胞群が存在することを明らかにしてきた。一方で、さらに上位の高次聴覚野には歌学習の後にのみ学習した歌に対してのみ特異的な聴覚応答を示す神経細胞が見出されること、つまりこの領域に学習した歌の記憶が形成されることを明らかにしている。これらの研究結果を基に、本研究では第一次聴覚野の生得的な神経回路と経験依存的に獲得する神経回路を形態的にも同定し、さらに上位の記憶形成に関わる高次聴覚野とどの様に接続し、学習を制御するのか明らかにし、また高次聴覚野ではどの様に親鳥との社会的相互作用により、その聴覚応答が変化するのか明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度はまず、第一次聴覚野の神経細胞群に蛍光タンパク質を発現させ、透明化を用いて多くの細胞の形態の網羅的解析を行った。蛍光タンパクの発現はウィルスベクターを用いて行った。興奮性細胞、抑制性細胞にそれぞれ特異的に発現するプロモーターを用いて発現を行うことで、興奮性細胞と抑制性細胞それぞれの細胞群について分類が行えるが、本年度は先の研究から第一次聴覚野のテンポを認識する細胞、音の音響構造を認識する細胞はどちらも興奮性細胞と思われることから、特に興奮性細胞の形態の解析を行った。第一次聴覚野の興奮性細胞に網羅的に蛍光タンパクを発現させ、その形態をライトシート顕微鏡を用いて観察し、その細胞体の大きさ、形、投射パターンといった特徴から6種類に分類することが出来た。また、これらの情報を用い、さらに細胞内記録を用いて電気生理学的特徴を同定した細胞の形態を同定し、同様に分類することで、第一次聴覚野の神経回路とその投射経路を明らかにすることを試みる研究を開始した。 一方で、親鳥との社会的相互作用により、ヒナ鳥の注意といった内的状態が変化し、聴覚刺激に対する知覚が変化することで学習が行われると考えられたことから、本年度は親との社会的相互作用中のヒナ鳥の、注意などを制御すると言われている神経核、青斑核から神経活動を記録し、歌学習中に青斑核の活動がどの様に変化するのか明らかにした。また、同様に、高次聴覚野からもその神経活動を記録し、社会的相互作用が聴覚応答に与える影響を明らかにした。この青斑核の親の歌を聴くことにより活性化される細胞群が高次聴覚野へ投射していることも形態的に明らかにできた。さらに今後の研究へ向けて、青斑核の高次聴覚への投射が高次聴覚野の聴覚応答をどの様にするのか明らかにするため、光遺伝学による青斑核の神経細胞の高次聴覚野における神経終末の活動の制御との予備研究を開始した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はH30年度の研究をさらに発展させ、第一次聴覚野の神経細胞から細胞内記録の方法を用いて、電気生理学的に記録を行い、細胞の聴覚応答の同定を行った後に、透明化を用いてその形態、投射先を明らかにし、これを先に分類した6種類のパターンに当てはめることで、第一次聴覚野の歌のテンポ、音響学的特徴をそれぞれコードする神経細胞群の形態学的同定を行う。また、高次聴覚野においては、ウィルスベクターを用いて、青斑核の神経細胞にチャンネルロドプシン、アーチといった光遺伝学の受容体を発現させ、この高次聴覚野における神経終末の活動を制御すると同時に、歌学習中の高次聴覚野の神経活動を記録することで、注意といったヒナ鳥の内的状況により、どの様に青斑核の活動が変化し、これにより、高次聴覚野の神経活動がどう制御されるのか明らかにする研究を推進していく。これらの研究はどちらも、H30年度中に予備実験を開始しており、どちらも順調にデータが出始めているため、研究計画を変更せず、このまま研究を推進していく方針である。
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Research Products
(9 results)