2018 Fiscal Year Annual Research Report
海洋無脊椎動物由来天然医薬品資源の生合成遺伝子解析と利用
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18H02581
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
脇本 敏幸 北海道大学, 薬学研究院, 教授 (70363900)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 共生微生物 / 生合成 / spongistatin / trans-AT PKS |
Outline of Annual Research Achievements |
Spongistatinは、アリゾナ州立大学 G. R. Pettitらがモルジブ近海の海綿Spongia sp.より見出した細胞毒性物質である。約400 kgもの海綿から10 mgの化合物の精製に成功し、1993年にその構造を報告している。興味深いことに全く同じ化合物が同年、別の研究グループから報告された。大阪大学薬学部の北川らは沖縄産海綿Hyrtios altum 11.2 kgから0.5 mgのaltohyrtin(= spongistatin)を精製し、構造決定した。また東京大学農学部の伏谷らは伊豆諸島産海綿Cinachyra sp. 6.6 kgよりcinachyrolide A (= altohyrtin = spongistatin) 1.1 mgを単離、構造決定した。これらは同時に報告されたために、3つの異なる名前が同じ化合物に対して付けられている。またそれぞれの海綿は系統的に異なる海綿であり、その生産者は異なる海綿動物に共生する共通の微生物である可能性を示唆している。しかしいずれの海綿においても含有量が低く、稀少な化合物であり、生産菌は共生微生物叢の主要種ではない可能性が高い。Spongistatinの細胞毒性活性は極めて強力であり、各種がん細胞に対して数十pMのIC50値を示す。微小管重合阻害作用を示すことから、抗がん剤として有望視されているが、複雑な構造を有するため、化学合成による供給は容易ではない。本研究では生産菌を同定することで、spongistatinの量産化へ向けた基礎的知見を得る。今年度は生合成遺伝子クラスターの取得に必須である遺伝子ライブラリーを作製した。さらに海綿メタゲノムを鋳型に用いたPCR分析によって、trans-AT KSの配列断片を複数得た。今後は特異的プライマーを設計し、スポンジスタチン生合成遺伝子クラスターの取得を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々は伊豆半島産、海綿D. calyxからcalyculin生合成遺伝子クラスターの取得に成功しているが、spongistatinの海綿中の含有量は極めて僅かである点が、これまでの我々の先行研究例とは大きく異なる点である。従って、spongistatin生合成遺伝子の探索はより困難なことが予想された。Spongistatinの構造にはβ-branch構造やピラン環が含まれることから、calyculin Aと同様にtrans-AT PKSによって生合成されることが予想できる。まず海綿に含まれる細胞を分画することを目的に、海綿破砕液を段階的に遠心分離に供し、得られたH. altumの微生物細胞画分を用いて、spongistatinの生産菌叢の絞り込みを行った。各画分をテンプレートにPCRスクリーニングを行った結果、β-branchの生合成に関わるKSドメイン特異的プライマーを用いた場合にのみ遺伝子断片の増幅が見られた。そのため、ライブラリーのスクリーニングにはβ-branchをターゲットとしたプライマーを用いることにした。また、20,000 x gの分離画分のみにて増幅断片が得られたことから、spongistatin 生合成遺伝子は20,000 x gにて得られる比較的小さい微生物に由来すると考えられる。また、得られたDNA断片をシーケンス解析に供した結果、増幅断片には、難培養性バクテリアの産生するpsymberinの20,000 x gの分離画分より抽出したDNAを鋳型としたPCRにより、spongistatin 1に特徴的なβ-branch構造の生合成に関わる遺伝子の増幅が見られた。本画分は過去に海綿由来天然物の生産菌として報告されているEntotheonella sp.が含まれる200 x g画分とは異なるため、新たな有用化合物生産菌の発見につながることが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度遂行したメタゲノムライブラリーのPCRスクリーニングの結果、spongistatin生合成遺伝子を含んだコスミドDNAを得られた可能性が高いと考えられる。今後は、得られたコスミドクローンが含む挿入配列のサブクローニングと、周辺領域をコードするクローンの探索によってspongistatin 生合成遺伝子クラスター全体の取得が可能になると考えられる。実際に取得したヒットクローンにはpsymberin生合成に関与するPsyA(GenBank accession number ADA82581.1)のKSドメインに相同性(identity 82%)を示すタンパク質がコードされていた。引き続きH. altumメタゲノムライブラリーの3D-gel法によりスクリーニングを行う。3D-gel法は、室温で半固体状態を維持できるアガロースを含んだLB培地(3D-ゲルLB培地)を用いることで、大量の候補の中から目的の遺伝子をもつクローンを効率的に選別できる方法である。50,000 cfus (colony forming units) のH. altumメタゲノムライブラリーを1,000 cfuとなるよう希釈・分割し、これらをテンプレートにPCRを行い、目的の遺伝子断片の増幅が見られる画分を選別する。それぞれの画分に対し、さらにPCRスクリーニングを行い、コロニーPCRの結果から増幅が見られた単一コロニーからフォスミドDNAを抽出し、現在挿入配列のシークエンス解析を行う。
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