2019 Fiscal Year Annual Research Report
Structure-selective metabolome analysis of ABC xenobiotic transporters
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18H02584
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
加藤 将夫 金沢大学, 薬学系, 教授 (30251440)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 膜輸送体 / メタボロミクス / 薬物動態 / 薬物相互作用 / 医薬品開発 |
Outline of Annual Research Achievements |
膜輸送体breast cancer resistant protein(BCRP)は、小腸刷子縁膜、肝胆管膜、脳血管内皮細胞、腎尿細管等に発現し、医薬品を含む基質化合物を細胞外に排出する。BCRPの機能低下型遺伝子変異を有するヒトでは、基質薬の血中濃度が変化する。一方で、BCRPを阻害する併用薬により、基質薬の体内動態が変化することも報告されている。したがって、生体内でのBCRPの機能を反映する生体内基質を解明することにより、BCRPの個人差や薬による影響を解明できると考え、アンターゲットメタボロミクスの手法を用い生体内基質を探索した。また、臓器特異的な生体内基質探索を目指し、肝臓BCRPのみをノックダウンするアデノ随伴ウィルスベクター(AAV)の構築を試みた。In vivoでの生体内基質探索を目指し、マウスにBCRP阻害剤経口投与後、BCRP基質薬を経口投与して血中濃度の変化を確認したのち、阻害剤有無での血漿や尿検体中濃度を比較することにより、生体内基質を探索した。ヒトとマウスでは摂取する食物が大きく異なるため、ヒトでも観察できる生体内基質の探索を目指し、BCRPの基質にはフラボノイドやその代謝物が多数含まれることに着目し、マウスにフラボノイドを含む餌を混餌摂取させた後に、BCRP阻害剤投与を試みた。その結果、阻害剤の投与は、BCRP基質薬の血漿中濃度を大きく上昇させたことから、BCRP阻害効果が確認されるとともに、阻害剤の有無によって強度の異なるイオンピーク178個を見出した。そのうちの一部は、すでに報告のある大豆由来イソフラボン代謝物であったことから、本実験系が正しく動くことが示唆された。一方、構築されたBCRP遺伝子ノックダウンAAVをマウスに投与したところ、肝BCRP発現が顕著に低下したことから臓器特異的BCRPノックダウンに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、薬物動態に関わる膜輸送体の中でも特に重要視される排出輸送体であるBCRPとP-glycoproteinに着目している。BCRPについては、前述のように多くの生体内基質候補化合物がすでに特定されており、今後これらの絞り込みによって多数を同定する予定である。一方、P-glycoprotein(P-gp)については、BCRPと同様、in vivoでの生体内基質探索を目指し、マウスにP-gp阻害剤経口投与後、P-gp基質薬を経口投与して血中濃度の変化を確認したところ、顕著な血中濃度の上昇が見られ、本実験系でのP-gp阻害効果が確認できた。一方で通常飼育条件下で、アンターゲットメタボロミクスの手法を用い阻害剤有無での血液や尿成分中濃度を比較検討したところ、阻害剤投与によって再現性良く変化するイオンピークは乏しかった。BCRPにおいては多くのイオンピークが観察されていることを考えると、P-gp生体内基質は限定されているか、あるいは動物間種差が極めて大きいことが考えられた。現在、マウスに摂取させる餌を種々検討する中で、食物由来成分の一部がP-gp阻害剤投与によって変化することを突き止めており、当該化合物およびその代謝物に着目した検討を進めている。当該化合物の標品を阻害剤と同時にマウスに経口投与したところ、その血漿中および脳内濃度は阻害剤によって有意に増加したこと、P-gpの遺伝子発現細胞から調製した膜小胞と当該化合物をインキュベーション後に膜小胞への取り込みを測定したところ、P-gpの輸送駆動力であるATPの添加によって取り込みが有意に増加したことから、当該化合物がP-gpの生体内基質であることが示唆された。一方で、P-gpの典型基質の膜小胞への取り込みに対し当該化合物は溶解濃度限界まで阻害しなかったことから、P-gpへの親和性は低いものと推測された。
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Strategy for Future Research Activity |
すでにBCRP生体内基質候補として特定されているイオンピークについては、他の阻害剤を用いた阻害試験による絞り込みと、LC-MS/MSを使った化合物同定とを平行して行うことで生体内基質探索と同定を行う。ヒトでの生体内基質解明のため、ヒトBCRP遺伝子発現細胞より調製した膜小胞への取り込みや、遺伝子発現極性細胞を用いた経細胞輸送によって、ヒトBCRPの基質であることを確認したのち、BCRP遺伝子の異なるヒト血液検体を用い血中濃度を測定することにより、BCRP遺伝子による違いが認められるかどうかを確認することで、ヒト生体内基質であることを示す。一方で、さらに候補化合物を増やすことで、阻害剤による影響がより鋭敏に観察できる生体内基質の探索も重要と考えられるため、他の阻害剤を用いた検討や、摂取させる餌等の飼育環境の変化、組織サンプルを使った解析などを進め、阻害剤により強度の変化する、より多数のイオンピークを特定する。臓器特異的基質を明らかとするため、今年度に開発されたAAVベクターを用いて肝臓BCRPをノックダウン後の血漿中や尿中濃度変化を追跡することにより、肝臓BCRP特異的基質の解明を目指す。さらには、当該ベクターないしはコントロールベクター投与後の血液ないし尿検体を用いたアンターゲットメタボロミクスを行うことで臓器特異的基質の探索を行う。P-gpについては、生体内基質の数そのものが少ない可能性も考えられるため、より強いP-gp阻害剤を用いた解析や、膜小胞等、他の試験系も組み合わせながら、候補化合物の数を増やす。また、これまでに本研究で確立済みの誘導体化手法を用いて、アミノ基やカルボン酸を有する化合物を特異的に誘導体化したのちにメタボロミクスを行うことで、構造特異的なスクリーニングを進め、候補となりうる対象化合物を広げることで生体内基質候補を増やすとともに構造同定につなげる。
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