2019 Fiscal Year Annual Research Report
大脳辺縁系と睡眠覚醒制御系との構造的・機能的連関の解明
Project/Area Number |
18H02595
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
桜井 武 筑波大学, 医学医療系, 教授 (60251055)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | レム睡眠 / 筋緊張 / カタプレキシー / オレキシン / ドーパミン |
Outline of Annual Research Achievements |
レム睡眠中には、大脳辺縁系が強く賦活しており、その意義と機構を理解するためにレム睡眠の制御系を含む睡眠醒制御系と大脳辺縁系の関係を解明する必要がある。今年度、ウィルスベクターによるトレーシング技術と光遺伝学を用いて大脳辺縁系と睡眠覚醒制御系との構造的および機能的な相互関係を明らかにすべく研究を進めた。レム睡眠中には大脳辺縁系が強く賦活しているが、同時に運動野もふくめ賦活された脳から運動系への出力を解除するために、全身の抗重力筋の筋緊張が大きく低下していることが知られており、これは脳幹からα運動ニューロンが局在する脊髄前角に投射するグリシンとGABAを介した強力な抑制性経路によってなされている。一方、オレキシンニューロンが欠損したナルコレプシー患者では、覚醒時、情動が発動している時にこの筋弛緩メカニズムが働いてしまい、カタプレキシー(情動脱力発作)と呼ばれる筋緊張の低下をともなう発作を来す。これらのことから大脳辺縁系の活動と、本来レム睡眠中に見られるべき筋緊張低下のメカニズムに深い関係があり、ここにオレキシン系が介在して覚醒時には筋緊張機構を制御していると考えられる。しかしこの三者がどのような神経接続をもって相互に機能しているのか、明らかになっていない。そこで大脳辺縁系と睡眠覚醒の制御系の相互関係を解明するためにcTRIO法をもちいて 脊髄前角に投射する延髄腹側のグリシン作動性ニューロンの上流を明らかにした。この経路はオレキシン欠損マウスにおけるカタプレキシーの発現にも関与していた。一方、ナルコレプシーマウスのカタプレキシー時の扁桃体におけるドーパミンの動態をGRABセンサ ーとファイバーフォトメトリーを用いて明らかにした。扁桃体のドーパミン線維の光遺伝学的操作によりカタプレキシー時のドーパミン動態を模倣するとカタプレキシー様の発作を惹起できることが明らかになった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、レム睡眠時の筋緊張抑制にかかわる経路に関して、脳幹から脊髄前角にいたる神経経路を明らかにした。またこの経路はオレキシン欠損マウスにおけるカタプレキシーの発現にも関与していた。下外側背側核(sublateral dorsal nucleus:SLD)のグルタミン酸作動性ニューロンがレム睡眠中に興奮し、延髄腹側部(VMM)に局在し、脊髄前角の運動ニューロンに接続するグリシン作動性ニューロンを興奮させる系がレム睡眠時の筋緊張低下に関与していた。さらに同じ系が、オレキシン欠損マウスマウスにおけるカタプレキシー発現にも関与していることを示した。これらの成果は、投稿中である。さらにSLCの上流を検討しており、扁桃体から腹外側水道周囲灰白質核(VLPAG)に至る抑制投射およびVLPAGによるSLDへの抑制性投射が関与していた。一方、カタプレキシー発動時の扁桃体におけるドーパミン放出をファイバーフォトメトリーによって測定し、特定のパターンが扁桃体過活動をもたらし、カタプレキシー発現に関与することも見出している。これらは、新規の知見であり、レム睡眠時の筋緊張低下の生理的メカニズムと、カタプレキシー発現の病理的メカニズムを明らかにしたことは重要である。
|
Strategy for Future Research Activity |
現在、SLDの上流でレム睡眠時の筋緊張低下に関わるシステムを検討しており、候補として扁桃体中心核(CEA)からVLPAG、SLDを経てVMMに至る系が明らかになってきた。今後はこの系を操作して、実際にレム睡眠時の筋緊張低下に与える影響を検討していく。レム睡眠時は扁桃体が過活動しており、これが筋緊張低下に関与している可能性がある。このことを検討するため、扁桃体外側部をレム睡眠時に抑制し、筋緊張低下に与える影響を明らかにしていく。一方、オレキシン欠損マウスにおけるカタプレキシー発現に扁桃体過活動が関与していること、および腹側被蓋核のドーパミンニューロンがこれに関与していることが明らかになってきたため、この系をどのようにしてオレキシンが抑制しているのかを明らかにしていく。現在、オレキシン欠損マウスでは情動刺激ごの扁桃体におけるドーパミン上昇が低いことを突き止めており、どのようなメカニズムで、オレキシンが扁桃体のドーパミン上昇を抑制しているかを明らかにする。また、VLPAGからSLDに投射する抑制性ニューロンにもオレキシン2受容体が発現しており、この部位を介したオレキシンの作用についても検討を進めていく。
|
Research Products
(6 results)