2018 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18H02647
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
海老原 敬 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 上級研究員 (20374407)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 2型自然リンパ球 / 慢性閉塞性肺疾患 / 喘息 / 分化微小環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
慢性炎症性気管支炎は、大きく喘息と慢性閉塞性気管支炎(COPD)に分類される。ILC2は、2型サイトカインを産生することにより、喘息の増悪させるため、現在大きな注目を浴びている細胞である。私達は、そもそも、ILC2における転写因子Runxの機能を調べるために、ILC2の前駆細胞(PLZF陽性)において、全てのRunxの結合パートナーであるCbfbの機能欠損を誘導し(Cbfb f/f: PLZF-Creマウス)、全てのRunxの機能不全を誘導した。PLZFは、血球以外に上皮細胞でも発現するため、Cbfb f/f: PLZF-Creマウスでは、ILC2の機能障害と非血球組織の異常を認めた。ILC2は、アレルギー炎症で不活性化状態になりにくい細胞といわれていたが、その作用機序は明らかになっていなかった。Runxが欠損してもILC2は肺で正常に分化するが、アレルギー炎症で活性化すると疲弊様現象を来し、低活性状態になることを報告した(Nat Commun 2019)。Cbfb f/f: PLZF-Creマウスにおける血球外異常として、1)肺ILC2の分化微小環境障害、2)COPD様病変を認めた。野生株の骨髄をCbfb f/f: PLZF-Creマウスに移入すると、肺だけでILC2が減少した。肺ILC2の分化微小環境障害はRunx1の機能欠損が起因すること、Runx1の発現は肺上皮細胞で非常に高いこと、上皮細胞でPLZFが発現していることより、肺上皮細胞特異的にRunxの欠損を誘導した(Cbfb f/f: Shh-Cre)。しかし、有意差のある肺ILC2の減少を認めたものの、その減少は軽度であり、COPD様病変も認めなかった。現在は、Cbfb f/f: PLZF-Creマウスにおける肺間質細胞の障害を検討している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Cbfb f/f: PLZF-Creマウスの表現型として、1)肺ILC2の分化微小環境障害と2)COPD様病変だけを、研究の対象としていた。しかし、Cbfb欠損ILC2が激しいアレルギー炎症を受けると、機能が低下することが分かり、そのデータを先に論文にまとめた(Nat Commun 2019)。この機能低下現象は、IL-10、Tigit、Blimp1といった抑制性分子の発現上昇を伴うことから、疲弊様現象と名付けた。ILC2の疲弊様現象は、Cbfbが欠損していなくても、起きることがわかった。ILC2は、各種アレルギー疾患と相関することが分かっており、ILC2疲弊様現象の発見は臨床的意義が大きいと考えている。 肺ILC2の分化微小環境障害とCOPD様病変は、肺上皮細胞のRunx欠損が原因であると考えていた。しかし、気管支上皮細胞特異的Cre(Scgb1a1-Cre-ERT2)と肺胞上皮細胞特異的Cre(Sftpc-Cre-ERT2)では、大きな変化を認めず、全肺上皮特異的Cre(Shh-Cre)を用いてCbfbを欠損させた時初めて、有意差のある肺ILC2の減少を得た。しかし、その減少は大きなものではなく、COPD様現象も認められなかった。Cbfb f/f: PLZF-Creマウスの間質細胞においても、Runxの機能欠損が誘導されていることが分かったため、上皮細胞と間質細胞の相互作用がILC2の分化微小環境を形つくり、肺胞の維持に必須なのではないかと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
Cbfb f/f: PLZF-Creマウスの肺で、どの上皮・間質細胞にRunxの欠損が誘導され、肺ILC2の分化微小環境障害とCOPD様病変が生じるのか検討するためにCbfb f/f: PLZF-CreにRosa26-tdTomatoマウスを掛け合わせた。このマウスでは、Cbfbの欠損が誘導されるとtdTomatoが強陽性となる。さらに、内皮細胞マーカー(CD31)、上皮細胞マーカー(Epcam)、tdTomatoの発現(PLZFを発現した細胞)を調べたところ、大きく10個の細胞集団に分かれた。この10個の細胞集団のトランスクリプトーム解析を行い、ILC2と関連しそうな遊走因子や増殖因子がCbfbの欠損によって減少する細胞集団を同定する予定である。10個の細胞集団のうち、一つは繊維芽細胞、もう一つは周細胞であることがわかっているので、それらの細胞特異的なCreを入手しCbfbの欠損を誘導しているところである。さらに、上皮細胞特異的Cre(Shh-Cre)と掛け合わせることで、肺ILC2の減少やCOPD様現象が生じるかどうか検討する。このアプローチがうまくいかない場合、10X genomicsによるsingle cell analysisを行い、より網羅的な解析を行う必要がある。
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