2018 Fiscal Year Annual Research Report
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18H02716
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
松井 秀彰 新潟大学, 研究推進機構, 研究教授 (60710853)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | パーキンソン病 / ミトコンドリアDNA |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者らは約5ヶ月という脊椎動物で最短の寿命を持ち、かつ最速で老化するアフリカメダカ(N. furzeri)が、その短いライフコースの間に加齢とともにパーキンソン病の表現型を呈することを報告した(Matsui et al., Cell Reports, 2019)。アフリカメダカではパーキンソン病において蓄積するαシヌクレインを遺伝子編集で除去すると、パーキンソン病の表現型が改善するものの、脳以外の諸臓器は通常通り老化が進行する(Matsui et al., Cell Reports, 2019)。すなわち全身の老化と加齢関連疾患(この場合パーキンソン病)を分離することができる。核DNAの細胞質漏出と強い関連を持つ老化現象と、各臓器やシステムで引き起こされる加齢関連疾患は、完全には同じメカニズムで起こっているのではなくある程度分離可能な現象であると言える。 そのアフリカメダカおよびこれまでに作製解析した様々なパーキンソン病モデル、ヒト剖検脳症例を検討し、それらに共通の病態: 脳において『加齢とともにmtDNAが細胞質に漏出し細胞死を惹起する』可能性を見出した。具体的にはパーキンソン病モデルの小型魚類や培養細胞では細胞質にmtDNAが漏出し、タイプⅠインターフェロン(type I IFN)反応の亢進、細胞死を認める。Youle博士のグループからもPINK1/Parkin遺伝子改変のパーキンソン病マウスモデルにおいて、細胞質におけるDNA感知のkey分子の一つであるSTINGがその細胞死に関与していること、血液中にmtDNAが増加していることが報告されている(Sliter et al., Nature, 2018)。申請者らはさらにヒトパーキンソン病剖検脳においてもmtDNAが蓄積していること、細胞質DNAセンサーであるある蛋白が著増していることを報告中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
すでに論文投稿まで進んでいるので当初の計画以上と言って良い。
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Strategy for Future Research Activity |
老化は核ゲノムが損傷した細胞の癌化を抑制するなどの一面もある可能性があり、避けがたい現象であるかもしれない。しかしmtDNAの細胞質漏出に伴う個体機能低下と加齢関連疾患は、そのメカニズムを明らかにすることで、例えばミトコンドリア膜の安定化、mtDNAセンサーへの介入、リソソーム機能の増強、など薬剤などによる治療の可能性が広がる。mtDNAは核DNAとは違い多コピーであり、不要なものを分解しても複製できる点も創薬に向いている。対象となる疾患はパーキンソン病にとどまらずアルツハイマー病、心不全、NASH/NAFLDなどを含めて様々なものが考えられる。また何がmtDNAの細胞質漏出を惹起するかが明らかになれば、予防という側面からの介入も考えられる。mtDNAの細胞質漏出を鍵として、個体機能低下と加齢関連疾患をなるべく避け、健康寿命の延伸につなげることが本研究の展望である。 ただし得られた結果に比して今後の研究費が少なく、実施できるものは限定される可能性もある。研究の発展のためにはさらなる研究費獲得を目指すしかない。
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