2019 Fiscal Year Annual Research Report
TREM2・単球機能を標的とした糖尿病・肥満に伴う認知症予知指標・治療戦略の開発
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18H02737
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Research Institution | Department of Clinical Research, National Hospital Organization Kyoto Medical Center |
Principal Investigator |
浅原 哲子 (佐藤哲子) 独立行政法人国立病院機構(京都医療センター臨床研究センター), 内分泌代謝高血圧研究部, 研究部長 (80373512)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
猪原 匡史 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 病院, 部長 (00372590)
二宮 利治 九州大学, 医学研究院, 教授 (30571765)
小谷 和彦 自治医科大学, 医学部, 教授 (60335510)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | TREM2 / 認知症 / 糖尿病 / 肥満 / 早期予知バイオマーカー / 治療戦略 / 単球・ミクログリア |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者は、糖尿病・肥満マウスを用いたマイクロアレイの検討から、糖尿病・肥満に伴い骨髄単球や腹腔マクロファージにて発現が亢進する遺伝子・triggering receptor expressed on myeloid cells 2(TREM2)を新たに同定した。GWASよりTREM2遺伝子変異と認知症との関連が報告されている。本研究では、糖尿病・肥満に伴う認知機能低下におけるTREM2の病態意義を解明する為、NHO多施設共同糖尿病・肥満症コホート(JOMS/J-DOS2)を構築し、糖尿病患者の可溶型TREM2(sTREM2)を測定した所、血中sTREM2高値が認知機能低下(MMSE↓)と関連することを見出した(Diabetes Metab 2019)。久山町研究との共同研究により、一般住民における血中sTREM2とインスリン抵抗性との関連(Diabetes Res Clin Pract 2018)、また追跡調査による10年後の認知症発症との関連を認め、血中sTREM2が認知症の新規予知バイオマーカーとなる事を示した(Ann Neurol 2019)。更に、NHO研究の糖尿病患者において、横断解析ではsTREM2は高血圧合併、HbA1c、hsCRPなど認知症リスクと正相関を有し、逆に肥満合併は認知機能悪化の要因となる可能性、また縦断解析(2年追跡)ではsTREM2の有意な上昇を認め、初期のsTRME2高値がMMSE低下と相関する傾向を認めた。以上、血中sTREM2は高血糖・高血圧・炎症亢進を介した認知機能低下に関与する可能性が示唆された。基礎研究では、脳アミロイド血管性認知症マウスを用い、抗酸化作用を有するポリフェノールであるタキシフォリン投与により、海馬のTREM2発現抑制による脳内炎症の低下、脳内血流量の改善や脳内Aβ量の減少を認め、認知機能が改善することを明らかにした(Proc Natl Acad Sci USA 2019)。以上、本研究により、TREM2抑制による脳内炎症改善が認知症予防に繋がる可能性が考えられ、sTREM2の予知指標・治療標的としての臨床的意義・重要性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は前年度に引き続き下記臨床・基礎研究を推進し、予定より早期に成績を纏め、「糖尿病から認知症発症におけるsTREM2の病態意義」を多数英文誌に発表し、プレスリリース・学会・総説含めて反響も大きく、計画以上に進展している。 1.臨床研究:1)NHO多施設研究 糖尿病・肥満症コホート(JOMS/J-DOS2)を構築し(1937例登録完了)、1年毎の追跡調査を行い、現在5年目の認知機能検査(MMSE)含めた追跡調査中である。2)横断解析にて非肥満型糖尿病患者でのsTREM2とインスリン抵抗性との関連を報告し(Diabetes Metab 2019)、更にsTREM2と認知症リスク(高血圧合併、HbA1c、hsCRP)との関連、肥満合併は逆に認知機能悪化抑制する事を見出した。3)縦断解析(2年追跡)ではsTREM2の経年的上昇及び初期のsTRME2高値のMMSE低下との相関傾向を認めた。4)九大・久山町研究との共同研究では一般住民にてsTREM2とインスリン抵抗性との関連を示し(Diabetes Res Clin Pract 2018)、また血中sTREM2と10年後の認知症発症(アルツハイマー型・血管型)との有意な関連を認め、血中sTREM2が認知症の新規予知指標となる事を示した(Ann Neurol 2019)。 2.基礎研究:1)脳アミロイド血管性認知症マウスにおいて、抗酸化作用を有するフラボノイド・タキシフォリンにより海馬のTREM2陽性ミクログリアの発現抑制による脳内炎症の低下、脳内血流量の改善や脳内Aβ量の減少から認知機能が改善する事を解明した(Proc Natl Acad Sci USA 2019)。以上本研究により、TREM2抑制・脳内炎症改善による認知症予防作用を証明し、TREM2の予知指標・治療標的としての有用性が示された。2)db/db肥満マウスにて、脳及び脂肪組織でのTREM2発現の亢進を認め、作製に成功したTREM2 欠損マウスと共に、高脂肪食負荷を施行して、TREM2の病態意義の検討を推進している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究にて是まで、一般住民・糖尿病における新規認知症予知バイオマーカー並びに認知症治療標的としてのsTREM2の有用性を報告してきた。今後さらに、下記臨床・基礎研究にて糖尿病・肥満症に伴う認知症進展機序の解明と治療戦略の確立を目指す。 1.臨床研究: NHO糖尿病・肥満症コホートの多施設データの追跡と縦断解析を推進し、糖尿病における認知機能低下度、MMSE低下に対するsTREM2や糖脂質代謝・血圧・炎症指標等の関連、最も影響する規定因子の同定、薬物治療別・肥満の有無別等のサブ解析、肥満と認知機能低下との関連解析を行い、糖尿病・肥満症に伴う認知症進展機序・予知指標の同定を行う。特に是まで未解明の肥満の認知症への影響(促進因子か抑制因子か)を解明する。単球M1/M2比・sTREM2の関連解析も行う。久山町共同研究では年齢別、肥満・糖尿病・高血圧等の有無別のサブ解析を行う。 2.基礎研究:A.是までの成績を踏まえ、認知症マウスへのタキシフォリン(TX)投与による認知症改善作用に対するTREM2発現や炎症指標以外に酸化ストレス、アポトーシスマーカーなど改善機序を解明し、TXを含む認知症予防薬の開発を推進する。B.糖尿病・肥満マウス(高脂肪食負荷)にTXを投与し、脳内・血中・脂肪組織におけるTREM2発現/濃度や炎症状態を対照マウスと比較し、TXの肥満・糖脂質代謝改善作用におけるTREM2の役割を解明する。C.樹立したTREM2欠損マウスに高脂肪食負荷を行い、体組成、糖脂質代謝、血中・各組織のTREM2値や炎症度を免疫組織学・分子生物学的に検討し、糖尿病・肥満におけるTREM2の病態意義を解明する。D.In vitroにてLPS・脂肪酸刺激による活性型ミクログリア細胞に対し、生活習慣病薬や内分泌ホルモンの投与を行い、TREM2値、炎症関連シグナルやミクログリア質的改善作用を検討し、ミクログリアの極性悪化の分子機構と生活習慣病薬等による質的改善効果を解明し、認知症治療戦略の確立を目指す。
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Research Products
(18 results)