2019 Fiscal Year Annual Research Report
単一細胞解析を用いた成体腎細胞分化機構の解明とヒトiPS細胞からの選択的分化誘導
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18H02826
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
長船 健二 京都大学, iPS細胞研究所, 教授 (80502947)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡辺 亮 京都大学, 大学院医学研究科, 特定准教授 (60506765)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ヒトiPS細胞 / 単一細胞解析 / 分化機構 / 分化誘導 / 腎臓 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ヒトiPS細胞由来の胎生期腎前駆細胞であるネフロン前駆細胞と尿管芽細胞から、糸球体と尿細管を含むネフロン様組織と集合管様組織への分化誘導系を用いて、腎前駆細胞から糸球体、尿細管、集合管等を形成する成体腎構成細胞への分化機序を解明する。具体的には、上記の腎組織形成系においてシングルセル遺伝子発現解析と主要なシグナル経路を網羅する成長因子と低分子化合物のスクリーニングを実施し、成体腎構成細胞の分化を制御するシグナル機構を解明する。そして、その情報を基にヒトiPS細胞から成体腎構成細胞への選択的分化誘導法を開発する。将来的には、本研究の成果を発展させ、遺伝性腎疾患患者由来iPS細胞の罹患成体腎細胞種への分化誘導を用いた疾患モデルの作製による病態解析や治療薬開発、成体腎細胞を用いた薬剤の腎毒性評価系を構築し、腎疾患に対する新規治療薬開発、薬剤性腎障害の防止策を確立する。 R元年度には、ヒトiPS細胞由来ネフロン前駆細胞から糸球体と尿細管を含む腎組織への分化系とヒトiPS細胞由来尿管芽細胞から集合管を含む腎組織への分化系の両者でシングルセルRNA-sequencingを実施し、発現変動する遺伝子群の同定と分化過程における途中段階の細胞分画を決定、さらに、細胞分化の分岐点と細胞分化を制御する遺伝子群の上流シグナル、下流にて発現制御を受ける転写因子群、新規の細胞系譜マーカー遺伝子の候補などの抽出を行った(Tsujimoto H. et al., 2020; Mae S. et al., リバイス中)。また、H30年度までに同定したヒトiPS細胞から特定の成体腎構成細胞を選択的に誘導するヒット化合物の中から、約5種類の化合物の再現性と有効性を確認し、それらを用いた分化に関与するシグナル経路の解析と特定成体腎構成細胞への分化誘導法開発を実施した(Araoka T. 未発表)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
(1) ヒト成体腎構成細胞の分化機構の解明 H30年度(前年度)までにヒトiPS細胞由来ネフロン前駆細胞と尿管芽細胞を混合して糸球体、尿細管、集合管を含む腎組織が形成される培養系においてシングルセルRNA-sequencingを実施した。本年度は、さらにヒトiPS細胞由来ネフロン前駆細胞から糸球体と尿細管を含む腎組織の分化系でのシングルセルRNA-sequencingを追加で実施し、既報のヒトiPS細胞由来腎組織との比較解析を行った(Tsujimoto H. et al., 2020)。さらに、ヒトiPS細胞由来尿管芽細胞から集合管を含む腎組織の分化系でのシングルセルRNA-sequencingを実施し、集合管分化における分化の遷移状態における遺伝子発現変化を解析し、発現変動する遺伝子群の同定と分化過程における途中段階の細胞分画を決定した。さらに、細胞分化の分岐点と細胞分化を制御する遺伝子群の上流シグナル、下流にて発現制御を受ける転写因子群、新規の細胞系譜マーカー遺伝子の候補などの抽出を行った(Mae S. et al., リバイス中)。
(2) ヒトiPS細胞から糸球体足細胞、近位尿細管、集合管への選択的分化誘導法の開発 H30年度(前年度)までに実施した成長因子および低分子化合物のスクリーニングによって、約10種類の低分子化合物が特定の成体腎構成細胞種を選択的に誘導するヒット化合物として同定された。本年度には、そのヒット化合物の再現性と有効性を検討し、約5種類のヒット化合物の処理濃度、処理期間の最適化を完了し、類縁化合物の効果の検証により化合物の標的分子の検討を行った。また、それらの化合物を用いたヒトiPS細胞から選択的に糸球体や尿細管を分化誘導する方法の開発を実施した。
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Strategy for Future Research Activity |
R元年度までに実施したヒトiPS細胞由来ネフロン前駆細胞から作製される糸球体と尿細管を含むネフロンオルガノイドの形成過程におけるシングルセルRNA-sequencingによって得られた運命決定に関わるシグナル経路および関連分子の解析を完了する。その情報を参考として、ネフロンオルガノイドに対するスクリーニングによって形成される糸球体と尿細管の比率を変化させる約5種類のヒット化合物の組み合わせや処理濃度、処理期間の最適化を完了し、ヒトiPS細胞から選択的に糸球体や尿細管を作製する分化誘導系を確立する。次に、作製された糸球体および尿細管細胞のマーカー遺伝子発現、生理機能(糸球体足細胞; angiotensin IIに対する収縮反応, 近位尿細管; アルブミン取り込み、PTHに対する反応など)を検証する。また、前年度までに実施したヒトiPS細胞由来尿管芽オルガノイドの形成過程におけるシングルセルRNA-sequencingによって得られた集合管の分化過程に関わるシグナル経路、関連分子の情報を基に、選択された増殖因子や化合物の組み合わせ処理法を検討し、ヒトiPS細胞から選択的に集合管を分化誘導する方法を確立する。作製された集合管細胞のマーカー遺伝子発現、生理機能(vasopressinに対する反応など)を検証する。さらに、入手可能の場合、摘出ヒト腎組織由来の糸球体、尿細管、集合管細胞との遺伝子および蛋白質発現などの比較解析を行う。
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Research Products
(38 results)