2019 Fiscal Year Annual Research Report
小腸幹細胞移植による大腸上皮置換と小腸不全動物モデルに対する再生医療の試み
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18H02867
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
中村 哲也 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任教授 (70265809)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松本 有加 東京医科歯科大学, 医学部附属病院, 特任助教 (50813672)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 腸オルガノイド / 腸上皮幹細胞 / 腸管不全 / 再生医療 / オルガノイド移植 |
Outline of Annual Research Achievements |
代表研究者はこれまでに、培養大腸オルガノイド移植で傷害大腸を修復するマウス実験に成功し、腸上皮幹細胞を利用する再生治療研究の基礎を築いた。本研究ではこの技術を応用し、小腸機能を喪失し、重篤な腸管不全を呈する患者に対する新しい機能再生技術の基礎を築くことを目的とする。そのために動物モデルを利用し、残存大腸内腔の上皮を解離し、培養した小腸オルガノイドを異所移植し、小腸機能補完を図る技術の確立を図るものである。具体的にはこのために、生きた動物の大腸上皮を安全かつ効率的に解離し、ここへ小腸上皮オルガノイドを移植して上皮を置換するハイブリッド腸作成技術を確立する。さらに、本法が重症SBSに対する有効な小腸機能再生治療となるかを動物モデルで検証する。我が国には、小腸切除後に静脈栄養治療から離脱できないSBS患児が100人を超えて存在するとされる。本研究が進展すれば、小腸欠損に対し、経口摂取した栄養を生理的状況に近い残存大腸で吸収可能とする全く新しい治療が期待できる。腸管不全を呈する短腸症候群に対しては、わずか数センチメートルであっても長い残存小腸を確保するために多大な実験的・臨床的努力が払われてきた事実がある。本研究で提案する技術は、既存の大腸組織を足場として利用することにより、血流確保術を必要とせずに広大な小腸粘膜を再生できる可能性を有する点において独創的な研究である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の2018年度には、マウス大腸の近位や遠位など任意の部位で粘膜表層を解離する技術を確立した。すなわち、管腔側に薬剤を作用させて上皮を解離し、ここへ別に培養しておいてオルガノイド細胞を生着させる大腸上皮置換技術を、再現性の高い安定した技術として確立した。具体的には、全身麻酔下にマウスを開腹し、内腔操作を可能とするチューブを大腸に挿入し、致死的とならずに上皮解離を可能にする技術を開発した。その後、別に用意した腸オルガノイドを注入し、上皮解離部に移植する手技も確立した。手術後のマウスが長期にわたり生存し、観察・評価可能とするための条件設定もできた。 2年目となる2019年度には、細胞移植をおこなう大腸面積の拡大を図るとともに、移植細胞の初期接着を高めるための共投与因子最適化もおこなった。その結果、実際に大腸組織が以前よりも広大な面積で移植細胞生着を許容するものとなったことが確認できた。さらに2019年度には、大腸上皮組織置換による小腸機能補填を確認することを目的とし、体サイズの大きなラットへの技術移行に着手した。ラットでの研究が進むことにより、本技術と小腸切除による腸管不全モデルを組み合わせることが可能となり、新規の小腸機能再生医療技術開発につながるものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度には、マウスモデルにおいては、近位・遠位など部位別に採取した小腸上皮細胞を大腸へ移植し、移植片の形態や分子発現を解析する実験を継続する。小腸上皮が移植によっても発現を維持する遺伝子群、あるいは異所環境に応じて発現を変動させる遺伝子群を明らかにし、オントロジー解析などから、小腸上皮細胞が固有性を維持する分子機構を明らかにする。 また2019年に着手し開始したラットモデルを用いる研究では、小腸化大腸による小腸機能補完作用を評価する。このために、短腸症候群ラットモデルを新規に作成し、これに対する大腸上皮の小腸置換術の効果解析をおこなう。すなわち、小腸オルガノイド移植後のラットに追加手術をおこない、広範囲小腸切除を施行後、その生存率、栄養素吸収などを評価する予定である。 研究代表者と分担者は、2019年度より研究機関を変えたが、上記の動物実験はすでに機関での承認を受けるなど、さまざまな研究申請手続はスムーズに進んでいる。最終年度となる本研究ではこれら成果の公表も広くおこないたい。大腸組織の一部を異種上皮組織に置換する「大腸上皮エンジニアリング」技術が確立できれば、腸管不全など種々のヒト難治疾患に対する新規治療の基盤技術となり、社会に及ぼす影響も大きいことが予想される。
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Research Products
(2 results)