2018 Fiscal Year Annual Research Report
口腔脳腸・味情報-内分泌連関食調節系の酸化ストレスによる変調と修復の分子生理基盤
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18H02968
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
二ノ宮 裕三 九州大学, 五感応用デバイス研究開発センター, 特任教授 (50076048)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉田 竜介 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 教授 (60380705)
安松 啓子 九州大学, 五感応用デバイス研究開発センター, 特任准教授 (50380704)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 酸化ストレス / 味覚 / シグナル伝達 / 内分泌 / 神経科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
口腔・腸の甘味・塩味受容体は、体に必要な栄養素の検知や吸収に働くが、その感度は脳の食欲調節因子レプチン・エンドカンナビノイド・アンギオテンシンIIによる最適化制御を受け、口腔脳腸・味情報-内分泌連関系を形成し、恒常性の維持に寄与している。高脂高甘味食などの過剰摂取は、この連関系に変調をもたらし肥満に導くことも知られ、その原因解明は喫緊の課題である。上記食欲調節因子は、酸化ストレス関連因子としても知られ、細胞内酸化により標的分子内SH基を修飾し(S-グルタチオン化:SSG化)、機能変化をもたらし調節効果の自己抑制的な低下が起こる可能性が示唆される。本研究は、その連関系の酸化ストレスによる変調と回復の動作原理を明らかにするため、課題1: 酸化ストレスによる味調節系の変調と修復の機序について、調節因子の標的イオンチャネル分子である代謝センサー(KATP:甘味)、温度センサー(TRPV4:甘味)、Naセンサー(ENaC:塩味)について、甘味・塩味受容細胞の興奮性のSSG化による変調とGSHによる修復を細胞分子生理学的に解析し、課題2: 酸化ストレス関連分子・遺伝子群の味細胞における発現と機能を検索する。 平成30年度は、課題1では、マウス鼓索神経全線維束味応答記録法を用いて、関連分子群の機能解析を行い、代謝センサー(KATP)については、チャネル開口剤及び閉口剤が、それぞれ甘味応答の抑制と増強に働き、酸化ストレス下では抑制効果が減少すること、温度センサー(TRPV4)の抑制剤が、甘味温度増強特異的に抑制すること、Naセンサー(ENaCs)阻害剤による抑制効果が酸化ストレス促進物質により低下することが示唆された。課題2では、主にRT-PCR法を用いた解析で、酸化ストレス分子標的の経路上にある酸化還元に関与する各種酵素や輸送体など、鍵分子群の発現が確認されつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
課題1では、レプチンの標的チャネルである代謝センサーKATPは酸化ストレス誘導物質の投与により甘味応答が増強される傾向へと変化することが判明し、チャネルが慢性的に閉口方向に働き、細胞興奮性が上昇する可能性が浮上してきた。しかも、その働きは、レプチンによる細胞興奮性の抑制制御と拮抗するため、レプチン抵抗性の形成の起点となる可能性が示唆される。また、35度Cに温度感受性にピークを持つTRPM5チャネルに加えて、類似の温度特性を持つTRPV4が、甘味応答の温度増強に特異的に関与することが判明し、甘味特異的な温度制御チャネルとしてのさらなる研究展開の基盤となる結果が得られている。さらに、ENaCsの酸化ストレス誘導剤による効果はチャネルの慢性的に閉口方向へとシフトさせ、Na特異的な応答の低下を導き、かつ、チャネル開閉への影響は時間軸で分のオーダーで現れることが判明したことから、味細胞の受容膜側で起こっている可能性が強く、酸化ストレス標的の味細胞の内外側チャネルの分子内標的が明確にできる可能性が示唆される。 課題2では、味細胞における酸化ストレスに関わるグルタチオン代謝機構に関連する酵素群(スーパーオキシド・デスムターゼ、カタラーゼ、グルタチオン・ペロキシターゼ、グルタチオン・レドクターゼなど)分子の発現がRT-PCR法レベルで確認され、味受容関連各種イオンチャネルのSSG化に関連する可能性が示唆されている。また、生体グルタチオン濃度を、血液、肝臓、舌組織に分け、測定を試みたが、舌組織に関しては測定感度に届かず、今後は血中グルタチオン濃度の測定値を基に、味細胞における味応答変化との連関を解析する必要があることが判明した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題はおおむね研究計画通りに進捗している。課題1では、レプチンによる甘味抑制の標的である代謝センサーKATPチャネルは、酸化ストレスにより慢性的な閉口が起こりレプチン効果と拮抗することが分かったが、このKATPが関わる経路は、甘味受容体T1R2/T1R3を介する経路(IP3合成、小胞体Caの分泌、Ca依存的TRPM5活性化、Na流入、細胞脱分極、興奮)ではなく、糖輸送体経路(グルコース輸送体、糖によるATP合成、KATPチャネル閉口、細胞脱分極、興奮)に存在する。従って、後者のカロリー受容経路に特異的に関わっているのかどうかはT1R3欠損系マウスを用いた解析が不可欠であり、前述の結果の確認作業と共に、これを実践する。次に、TRPV4の甘味特異的な温度感受性への寄与についても、野生型マウスを用いた薬理学的な解析と共に、TRPV4欠損系マウスを用いた解析を新たに行い、より明確な結果を得る必要がある。またTRPV4はカンナビノイドの標的であるとされ、カンナビノイドによるCB1受容体を介する甘味増強効果や酸化ストレスとの関連を、TRPV4欠損系を用い検索する。さらに、ENaCsの酸化ストレス下におけるNa応答の変化についてはアミロライドによる抑制性の変化と共に、アンギオテンシンIIによる抑制性との関連についても検索する。 課題2では、平成30年度で得られたグルタチオン代謝経路で働く各種分子の味細胞における発現を確認し、酸化ストレス剤投与後の変化と血中グルタチオン濃度との連関を検索する。また、グルタチオン合成系に働くアミノ酸輸送体の味細胞における発現と機能についても検索を開始する。
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Research Products
(25 results)