2018 Fiscal Year Annual Research Report
動的記号過程を活用したQOL評価の革新:共創的デザインによる新しい測定法の開発
Project/Area Number |
18H03024
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
福原 俊一 京都大学, 大学院医学研究科, 教授 (30238505)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山本 洋介 京都大学, 医学研究科, 准教授 (30583190)
田栗 正隆 横浜市立大学, データサイエンス学部, 准教授 (20587589)
脇田 貴文 関西大学, 社会学部, 教授 (60456861)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | QOL / 動的記号過程 / 共創的デザイン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では動的記号過程QOL評価法の理論を構築しその測定法を開発すること、そしてそれに基づくQOL評価が医療者と患者との関係性を改善しうるかを検討すること、以上2点を目的としている。そのために本研究では、1) 間主観に基づく、新しい健康指標・アウトカム指標としてのQOL評価法の開発、2) 医療者と患者のコミュニケーションを改善するツールとして、動的記号過程を活用したQOL評価法を開発することを目的としている。平成30年度は以下の項目について実施した 1. 動的記号過程アプローチに依拠したQOL測定の理論的検討:「動的記号過程」を念頭においたQOLの定量化方法の検討を行う。システム工学(椹木)、心理統計(脇田)、データサイエンス(田栗)、医学(福原、山本)各領域のエキスパートパネルによる理論的検討を行った。その際にすでに主任研究者が日本語版の独占的頒布権を有する尺度SFツールの測定レンジの限界を念頭に、質問ならびに選択肢の設定方法についてSFツールのオリジナル版開発者であるJohn Ware博士と議論を重ねた。 2. 共創的デザインを活用したQOL測定法の開発:質問紙法を用いて、一般人から患者まで幅広いレンジで測定できるQOLの測定について、患者、家族、医療者、測定現場の関係者などに質的インタビューを行い、実施可能性、ユーザビリテイ、などに関する意見を得た。具体的には、動的記号過程を念頭においた尺度を開発することを目的として、海外研究者と連携を行い新たな質問項目の尋ね方について複数のバージョンを比較するための予備的な調査を行った。具体的には、少数の対象者を対象に、質問項目選択肢の並び順ならびに表記を変えた3通りの質問を用意し、日本の一般住民集団を対象に質問票調査を実施し、各質問票の計量心理学的な比較を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度は既存の健康関連QOL尺度における問題点について洗い出しを行い、患者、家族、医療者、測定現場の関係者などに対する質的なインタビュー調査を終えることができた。それにより、医療者と患者のコミュニケーションを改善するツールとして患者のQOLを利用することのできるような新たなQOL尺度を作成する上で必要とされるべき事項が明らかとなった。さらには、より良い質問項目を策定するために、質問ならびに回答選択肢の表現技法に特化していくつかのバージョンについて計量心理学的検証に基づいた量的な比較をも実施することのできた意義は大きい。まさに本研究の最終的な目的である、QOLを医療者と患者のコミュニケーションを改善するツールとしていかに活用してゆくかに関する基礎的な知見とも言え、今後より精度の高いQOL測定方法の開発に資するものと思われる。すなわち、これらはQOLの新たな価値の創造につながるものとなりうる。しかしながら、患者と医療者の両者の視点に立脚しているものの、両者の相互作用、すなわち「間主観」の測定法については本年度以降の検討課題である。今後、間主観の測定法を確立してゆくとともに、家族や社会の視点を加味した「集主観」の測定をも見据えた、幅広い視座からのQOL評価法を確立することを目指してゆきたい。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は大きく2つに大別される。すなわち、1)これまで得られた知見および昨年度の研究で確立されたQOL測定方法におけるCATの活用可能性の検討、2)「間主観」の考え方に基づく健康関連QOL測定の新たな理論展開、である。 まずは従来の質問紙法によるQOL測定の限界を克服するために、近年活発化した項目応答理論(IRT)に依拠したCAT (Computer Adaptive Testing)の可能性について検討を行う。CATは、多数の項目に答える場合と同様の精度で短時間に測定可能という長所があり、回答者の負担軽減に資するものであると考えられる。引き続き、QOLを医療者と患者のコミュニケーションを改善するツールを目指すという本研究課題における目的達成のため、患者と医療者の両者の相互作用、すなわち「間主観」の測定法についての理論的な枠組みを構築する。CATは固定した項目(項目プール)を使用し、一方向性に測定するという点において従来の測定と本質的な差がない。そこで、患者と医療者それぞれによるQOL測定結果を、両者の前に可視化・共有し、すりあわせを可能にする測定方法・システムを構築する。それらのプロトタイプが完成すれば、地域や医療機関の少数患者を対象にパイロットテストを実施し、実際の測定上の問題点についても検討を行うことを目指す。
|