2018 Fiscal Year Annual Research Report
公共性の歴史社会学的観点からみた民間スポーツ組織の統括性に関する日欧比較研究
Project/Area Number |
18H03145
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
菊 幸一 筑波大学, 体育系, 教授 (50195195)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
Leitner Katrin 立教大学, コミュニティ福祉学部, 准教授 (10744906)
笠野 英弘 山梨学院大学, スポーツ科学部, 准教授 (20636518)
清水 紀宏 筑波大学, 体育系, 教授 (50196531)
海老島 均 成城大学, 経済学部, 教授 (60203650)
水上 博司 日本大学, 文理学部, 教授 (90242924)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 公共性 / 歴史社会学 / 民間スポーツ組織 / 統括性 / 日欧比較 / 法人組織 |
Outline of Annual Research Achievements |
4年計画の1年次においては、文献研究に基づく歴史社会学的観点から日欧における「公共性」概念の特徴を比較分析し、その理論的枠組みを設定した。ヨーロッパの公共性概念については、主に英独仏の社会学、哲学、歴史学、思想史、政治学、法学等の専門書から各国の概念の特徴とその異同について整理した。ヨーロッパにおける法人組織の成立には、王権的な自然的身体に代わる政治的身体として初期の「法人」が形成されており、この点が明治期以降における我が国の天皇を現人神とする「法人」との違いであること、したがって戦後における我が国の法人組織の統括性自体が、政治的権力に対する「抵抗」としての多様な形式をとるガバナンス論に基づく「公共性」を十分に担保していない歴史社会的背景がみられることが理解された。 また、これまで長らくアマチュア組織の中で発揮されてきたスポーツに対するボランタリズムは、人的資源以外の財政的な保証を教育組織や経済組織に依存するがゆえに、スポーツ組織自体の自律性や自立性を育む統括性と結びつかず、むしろそれらの課題を回避する方向に働くことが理論的に示唆された。 次に、このような観点からドイツにおけるスポーツ統括組織関者に対して予備的なインタビュー調査を行い、その統括性が主に州組織のそれを尊重する形で展開され、連邦組織がむしろその調整役を果たしている現状が明らかとなった。その背景には、先にみた法人格をもった組織に対する基本的な考え方の違いと、戦前のナチス支配によってあらゆる側面での組織的な自律性と自立性が欠如させられた歴史的反省が存在し、その反省から各スポーツ組織の統括性を公共的なものとして担保しようとする理念とそれに基づく仕組みを構築しようとする努力がみられることが明らかとなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初1年次に計画していた文献研究に基づく歴史社会学的観点から日欧における「公共性」概念の特徴を比較分析し、その理論的枠組みを設定することについてはおおむね達成することができた。しかしながら、仮説を導く歴史社会的な観点としてヨーロッパにおけるギルド組織の特徴やそれに影響されるスポーツ組織の特徴、あるいはプロフェッショナル組織の概念的異同とそれに基づく組織的統括性の違いなどについては、なお研究を深化させていく余地がある。 また、ドイツへの予備調査によって得られた調査結果から、次年度の英仏への予備調査に対する具体的な質問内容の整理ができた。 これに対して、ドイツ語圏調査の拠点としてウィーン大学日本学研究所(笠野、カトリン担当)、イギリス調査の拠点として日本スポーツ振興センター(JSC)ロンドン事務所及びラフバラ大学(海老島担当)、フランスのナショナルスポーツ科学セン事務所及びラフバラ大学(海老島担当)、フランスのナショナルスポーツ科学センター(INSEP、菊担当)等への調査に向けた協力と情報交換については、特にINSEPに関して十分な成果を上げることができなかった。 日本の民間スポーツ組織調査についは、日本スポーツ協会の協力を得て、調査目的や項目についての精査を行い、次年度に向けた質問紙調査及びインタンビュー調査の準備を行うことができた(清水、水上担当)。本調査は、日本体育協会から日本スポーツ協会への名称変更に伴う民間スポーツ組織の統括性のあり方や加盟団体等の考え方を明らかにする目的であることから、日本スポーツ協会との情報交換及び研究交流をも視野に入れた研究ネットワークの構築をある程度、図ることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
2019年度は4年計画における2年次にあたり、昨年度(1年次)の研究結果から得られた分析枠組みに基づく半構造化面接法により、主に英独のスポーツ統括組織の関係者及びスポーツ組織研究者に対して、各国の「統括性」に対する考え方とそれを支える公共性概念との関係について予備的なインタビュー調査を行う。具体的には、英国におけるロンドンオリンピック後の UK Sport、Sport EnglandとSport & Recreation Alliance の 「統括性」やその関係、オリンピック開催(ハンブルグ)を断念したドイツにおけるDOSBの「統括性」の動向などについて、組織関係者(実践的側面)と研究者(理論的側面)の双方からその現状と課題を明らかにする。 フランス調査についてはHP等を中心とする予備的な資料集に止め、来年度(3年次)における現地調査の予備的検討を行う。 日本調査については、日本スポーツ協会(JSPO)や日本オリンピック委員会(JOC)の協力を得て、中央競技団体及び地方スポーツ組織に加え、民間営利スポーツ組織の統括性を中心とする質問紙調査を実施する。その際、すでに昨年からスポーツ組織をめぐる「ガバナンス・コード」に対する円卓会議が民間スポーツ統括組織であるJSPOやJOC等とスポーツ庁及び独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)との間で行われているため、その手続きや内容あるいはコード確立にみられる統括性の課題を考える資料収集を行う予定である。 このように2年次の研究推進方策としては、3年次の本調査計画のための予備的調査を中心に行うため、代表者のもとに2名の非常勤研究員を雇用し、上記調査及び資料収集等がスムースに進行するよう補助の任に当たらせる計画である。
|
Research Products
(15 results)