2020 Fiscal Year Annual Research Report
光受容タンパク質を用いた単純細胞受容野型フィルター素子の作製と画像処理
Project/Area Number |
18H03258
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Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
岡田 佳子 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (50231212)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
長谷川 裕之 島根大学, 学術研究院教育学系, 准教授 (10399537)
西岡 一 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (70180586)
高橋 裕樹 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (80262286)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | バクテリオロドプシン / 視覚神経細胞 / DOGフィルター / Gaborフィルター / 錯視 / エッジ検出 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,光受容タンパク質の視覚機能をデバイスレベルで取り入れた視覚受容野型の画像フィルターを作製し,アナログ画像処理に適用すること,および視覚プロセスを構成論的に明らかにすることを目的とする.本年度は,タンパク質懸濁液をバイオナノインクとしてインクジェット印刷し,網膜神経節細胞受容野および脳の第一視覚野に存在する単純細胞受容野形状を3次元的に模倣した「グレースケール(多値化)DOG / Gaborフィルター」を実現し,アナログ画像処理および錯視検出に適用した.特にGaborフィルターを用いて,代表的な方向錯視であるCafe Wall 錯視を実験的に検出し,心理学実験および計算機シミュレーションと比較した.Cafe wall画像上をフィルター走査するだけで得られる畳み込み画像には,物理的には平行であるモルタル線部に右下がり,右上がりを示すtwisted codeが出現した.さらに錯視の強さに関するGaborフィルターの空間周波数および方位依存性を検討したところ,標準画像の場合には,フィルター長:タイル長が 0.66 以下の場合,および方位0度の場合に錯視が強調されることがわかった.Cafe Wall 錯視は方向依存性のある現象のため,視覚系の方向エンコード機構に基づいて説明することは妥当であり,本結果は錯視の強さが向きや線の長さを検出する神経細胞を模倣したGaborフィルターのサイズ(空間周波数)に依存することを示唆している.人間の目のエッジ検出機能と方向検知機能をソフトウェアや複雑な回路,電源を使わずに生体膜の特性だけで再現することに成功した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
昨年までに確立したマテリアルインクジェットプリンターによるタンパク質ナノインクの積層印刷条件を用い,網膜神経節細胞および単純型細胞を模倣した二種類の画像フィルターを作製し,アナログ画像処理への適用に成功しただけでなく,当初予定していなかった「錯視の検出」に成功した.網膜と脳に存在する視覚受容野を模倣したデバイスを個別に用いて,様々な錯視検出実験を行ったところ,錯視画像に対するそれぞれの反応の共通点と相違点が明らかになった.これまで心理学実験や,DOG/Gaborカーネルを用いた計算機シミュレーションによる構成論的手法によるアプローチしか行われていなかった錯視の研究に,デバイスを用いた実験的な構成論的手法を加えることができたことになる.新型コロナのため,国外で成果発表ができなかったが,「錯視するデバイス」の実現によって「作ることによる視覚機能の理解」につながる成果が得られたことから,当初の計画以上の進捗状況と考える.
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Strategy for Future Research Activity |
我々の視覚システムは,あるパターンを見たときになぜ現実を再現できないのか?幾何学模様の錯覚は視覚経路のどこで発生し始めるのか?錯視を検出する能力が我々の視覚と同じである「錯視するデバイス」と,錯視の計算機シミュレーションを比較して,これらの疑問の解決に挑戦する.特にCafe wall錯視に注目し,異なる二種類の受容野デバイスを用いて,方向錯視は網膜で行われるのか,脳で行われるのか,検証し,計算機シミュレーションと比較する.Cafe wall錯視に関する計算機シミュレーションは,大多数の報告がDOGを用いたもので,Gaborを用いた報告はほとんどないため,詳細に検証する. Cafe wall錯視の説明は色々提案されており,方位選択性ニューロンすなわち単純型細胞が関与すると考えられ,側抑制モデルがよく引用される.また,Cafe wallに網膜神経節細胞を模倣したDOGフィルターをかけるとねじれひもが生じるのでフレーザー錯視に還元できるというバンドパスフィルタリング説もある.最近では,角と線のコントラストが一致すれば角を過小視する側にエッジと線が傾いて見え,不一致なら角を過大視する側に傾いて見えるというコントラスト極性説が注目されている.「錯視するデバイス」の実現によって,作ることによる視覚機能の理解,錯視メカニズムの解明に貢献する.
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Research Products
(3 results)