2019 Fiscal Year Annual Research Report
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18H03316
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
橋本 悠希 筑波大学, システム情報系, 助教 (10601883)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
志築 文太郎 筑波大学, システム情報系, 教授 (20323280)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 漆 / 電子回路 / インタフェース |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,以下の課題を実施した. 電極配線手法:漆膜上に光沢があり凹凸の少ない配線パタンを作成するため2種類の配線パタン印刷手法について検証した.まず,金属箔を用いた箔押し手法では,レーザー箔転写機によって,導電性を持つ金箔を高精度で箔押しすることに成功した.この手法の場合,箔の線幅1mm程度まで安定的に漆膜上に定着するパラメータを導出した.これにより,CAD等で設計した配線パタンを直接漆膜上に転写でき,これまで行ってきたスクリーン印刷と比較して工数が大きく削減した.しかし,金箔の保護膜のみを溶解させるための溶剤の扱いにノウハウが必要であることが課題となった.エッチングでは,銅箔を漆膜全体に貼り付け,その上から配線パタンを漆でスクリーン印刷し,漆が塗布されなかった銅箔を溶融させた.これにより,意図した配線パタンを描くことに成功した.工数的にはスクリーン印刷よりも増加したが,配線パタンの抵抗値はスクリーン印刷時よりも低くなった.ただし,漆を用いてマスクしたため,配線パタン上の漆を取り除くことができないことが課題となった. 配線設計手法:文様と回路としての機能を両立した配線設計手法の改良を行った.電子部品の配置を含めた回路全体を文様と一体化させるアルゴリズムを設計・検証を行うと共に,具体的な実装例としてNFCアンテナを実装した.まず,アンテナとして使用可能な程度に文様の形にアンテナを設計することを行い,実際に電波検出感度を測定することで市販のNFCリーダーで十分使用可能であることを確認した.今後,上記配線手法と組み合わせることで,3層以上の回路に拡張することが期待される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究成果により,漆回路を多層化する上で懸案だった,高密度化と見栄えが両立可能な配線手法が確立しつつある.特に,今年度検証した2種類の手法は,両方とも従来の銀ペーストでは出せなかった光沢を持ち,漆回路の付加価値を高めることに大きく寄与すると考えられる. また,配線パタンを文様として利用するための設計アルゴリズムが大きく改良され,文様として描かれた配線パタンにアンテナとしての機能を持たせるという,これまでよりも一歩進んだ実用化検証フェーズに入った.まだ簡単な模様のみの対応に留まっているが,今年度の成果を基礎としてより複雑な文様を配線パタンに組み込むことへの可能性が見えてきた.
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Strategy for Future Research Activity |
さらなる漆回路構築技術の高度化を大きく進めると共に,実用化に向けたプロトタイピングを活発化させる.具体的には,以下の課題に取り組む. 電極配線手法:これまでの配線技術をさらに磨き上げ,4層以上の積層回路を安定的に作成可能にする.今年度の成果である箔押とエッチングを組み合わせることで,それぞれの手法単体では難しい線幅での配線を実現する.また,今年度に検討したが上手くいかなかった漆表面の疎水化にも再度挑戦する.漆表面に対してフッ素による表面処理を行い,疎水化した上で1um以下の微細配線パタンの印刷を行う.さらには,曲面に対して配線する手法に着手する.漆器は曲面を持つものが多いため,漆回路を漆器上に構築するには,曲面への配線技術が重要となる.そこで,3Dスキャナによる素地の計測およびロボットアームとタンポ印刷技術による配線パタンの作成を試みる.また,インクを水面に浮かべ,立体物に模様を転写する水圧転写技術についても検討する.水圧転写には,インク層を支持するフィルム層があり,フィルムにインクを印刷して転写する.このフィルムについて複数種類を用意し,導電性インクを印刷可能であるものを同定する.見つからなかった場合,導電性インクではなく金属箔を使用することや,製紙会社と共同で導電性インク用フィルムを開発することも検討する. プロトタイピング:今年度行った文様回路デザイン手法を拡張し,日用品に漆回路を組み込み,日常生活で使用可能なレベルのプロトタイプを作成する.まずは平面がある皿やコップ等に対し,紋様アンテナによる給電・通信機能と,各種センサICによるデータロガー機能を持たせる.センサは,接触センサや温度センサ,塩分濃度センサなど,様々なセンサについて実装し,有効性を検証する.その後,需要のある機能を実装した漆インタフェースを試作して,その使い勝手,耐久性,安定性などを評価する.
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