2019 Fiscal Year Annual Research Report
高品位ハドロンビームの集団共鳴不安定化とその発生条件の解明
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18H03472
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
岡本 宏己 広島大学, 先端物質科学研究科, 教授 (40211809)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 清一 広島大学, 先端物質科学研究科, 助教 (70335719)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 粒子加速器 / 大強度ビーム / 非中性プラズマ / 空間電荷効果 / イオントラップ |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度、自己無撞着な多粒子シミュレーションコードを駆使し、位相空間粒子密度に依存した集団共鳴不安定帯のシフト量を規定する定数因子(C-factor)を数値的に評価した。今年度はS-POD III号機の新型多極イオントラップを利用して、低次コヒーレント共鳴に対するC-factorの実験的評価を試みた。まず、トラップ電極上に誘起される微弱なイメージ電流をモニターすることにより四極振動モードのチューンを評価し、位相空間粒子密度の指標である“チューン降下率”を閉じ込め粒子数の関数として求めた。そのデータと非線形摂動印加時におけるイオン損失分布から、六極および八極振動モードのC-factorを計算した。いずれのモードに対しても、理論的予想通り、C-factorは1より小さい値をとることが示されている。 短バンチ実験用トラップシステム“S-POD IV号機”の構築が完了し、イオン閉じ込め性能試験を実施した。現時点で既に、10の6乗個を超えるイオンの安定な蓄積に成功している。イオンプラズマの寿命は4秒程度で、これまで使用してきたトラップと遜色ない性能を持つ。また、軸方向のイオン閉じ込めポテンシャルの影響で、横方向自由度の実効チューンが大きく減少することも確認した。このため、長バンチを想定した過去の実験と比べ、共鳴の発生条件が複雑化する。 S-POD II号機を使った非線形結合共鳴探索実験も実施した。欧州合同原子核研究機構の陽子シンクロトロン(通称PS)を念頭にパラメータ設定を行い、最近PSで観測された動作チューン6.25付近の共鳴不安定帯の定性的再現に成功した。同機構の研究者らが用いている理論モデルは観測データを満足に説明できておらず、「PSが含む“未知の磁場誤差”が本質的な不一致の原因である」と結論されている。S-POD II号機の実験結果はこの解釈に問題があることを強く示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記載した研究実施計画に沿って、実験・理論共おおむね順調に成果が上がっている。
新たに構築中だった短バンチビーム実験用S-POD IV号機の真空ポンプに不具合が生じたため、性能試験の開始が予定より数ヶ月遅れてしまったが、現在はすべてのコンポーネントが問題なく機能している。S-POD III号機の中性ガスイオン化用電子銃の出力低下により、閉じ込めイオン数の可変範囲が一時期制限されていた。しかしながら、この問題も電子銃の交換によって既に解決済みである。S-POD II号機で並行して進めている非線形共鳴帯の探索実験は順調に進捗しており、有益なデータが生産されている。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の通り、今のところ当初の実施計画に沿ってほぼ問題なく実験が進捗しており、研究内容の詳細に大きな変更を加えることは考えていない。
S-POD II号機による非線形結合共鳴帯の探索実験を継続する。上述した通り、本基盤研究を通じ、欧州の加速器エキスパートらが導いた結論に本質的な問題のある可能性が示唆された。現在PSでは大型ハドロン衝突型加速器(LHC)のアップグレードに伴うビーム電流増強計画が進んでおり、非線形共鳴によるビーム損失の徹底的な解明が求められている。S-POD II号機を使って更に詳細な観測データを蓄積することには大きな意義がある。 六極および八極振動モードに対するC-factorの実験的評価には成功したものの、(多粒子シミュレーションで予想されていた)粒子損失に伴う不安定帯のシフトの影響がとくに八極モードに対して強く現れている。C-factorの決定は本基盤研究の主目的「集団共鳴条件公式の妥当性検証」に直結した最重要課題であり、実験データの再現性確認も含め、評価値の更なる信頼性向上を図る必要がある。S-POD III号機は当面、この目的のため集中的に運用する予定である。 新たに構築したS-POD IV号機の初期性能試験が終了したので、本格的な短バンチ実験に着手する。従来の実験に比べ物理的自由度が一つ増えるため、基本パラメータの調整やトラップ動作点の正確な評価、制御プログラムの準備等に一定の時間を要するが、年度後半までには系統的実験が開始できる状態にしておきたい。3次元の多粒子シミュレーションもこれまで通り進めるが、非常に時間がかかるため、初期条件の設定には十分気を配る必要がある。IV号機が出力するデータを見ながら、臨機応変に数値計算の方向性を決めていきたいと考えている。
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Research Products
(22 results)