2018 Fiscal Year Annual Research Report
Study on damage-free X-ray nonlinear spectroscopy
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18H03474
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
玉作 賢治 国立研究開発法人理化学研究所, 放射光科学研究センター, チームリーダー (30300883)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
北村 光 京都大学, 理学研究科, 助教 (60335297)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | X線自由電子レーザー / X線非線形光学 / ダメージ / ボルツマン方程式 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、X線自由電子レーザーからの高強度X線による試料へのダメージを理論・実験の両面から明らかにし、高強度X線が必要とされる非線形分光でダメージを受けていない状態を調べる方法を研究するものである。このために、まず、十分に高いX線強度で吸収スペクトルを測定するための分散型分光器を設計し、最も重要な光学素子であるX線ミラーを製作した。当初、ミラーの形状は楕円面を想定していた。しかし、詳細設計の過程で、双曲面なら全長を短くできることに気づいた。そこで、双曲面ミラーで光学設計を行った。なお、双曲面ミラーを使ったX線分散型分光器は、世界で初めての光学系である。また、本研究に先行して行った実験では、銅のK殻を励起して、その吸収スペクトルから電子状態の変化を議論した。これと異なるL殻を励起した場合のデータを取得するために、蛍光X線の光子エネルギーでの共鳴2光子吸収を試み、これに成功した。その結果、Kα線での吸収スペクトルは、発光スペクトルと比較的よく一致しているが、Kβ線での吸収スペクトルは発光スペクトルと大きく異なり、M殻の電子状態が大きく改変されている可能性が示された。これらのデータの解釈については現在進行中である。 ダメージの理論メカニズムを明らかにするため、量子ボルツマン方程式の数値シミュレーションを実施し、高強度X線照射にともなって生じた高エネルギー一次電子の衝突緩和および二次電子励起の時間発展を調べた。その結果、一次電子がプラズモンを集団励起し、そのエネルギーを介して二次電子がフェルミ面上へカスケード的に励起される過程が重要であることを示した。また、照射直後10フェムト秒程度におけるダメージは、一次電子の初期エネルギーが大きいほど、逆に小さくなることがわかった。最終的に全電子が熱平衡のフェルミ分布に漸近すること(非平衡統計力学における量子H定理)も確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
高強度での吸収スペクトルを測定する装置開発は順調に進んでいる。共鳴2光子吸収分光では、ビームラインに常設された2結晶分光器の光子エネルギーが十分な精度で校正されていなかったことが判明したため、もう一度測定する必要があり、このため半年程度遅れが生じている。 本年度実施したダメージの数値シミュレーションは、試料の詳細な電子構造は無視しているものの、伝導電子を電子ガスとして扱う標準的な近似の範囲内で、0-1000eVの幅広いエネルギーにわたる一次・二次電子の熱化ダイナミクスを自己無撞着に解いた点では、新たな成果だといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
実験面では、製作した双曲面ミラーで分散型分光器を完成させ、これまでデータの無い比較的高い強度での吸収スペクトルを測定する。また、金属以外にも半導体でも同様の測定を行い、吸収スペクトルに現れる高強度X線の影響が両者でどう違うのかを実験的に明らかにする。理論面では、X線パルスを照射した固体電子系に誘起される電気分極の実時間変化から、X線吸収スペクトルを算出する手法を開発し、吸収端付近のスペクトル形状がエネルギー密度に対してどのように依存するかを調べる。
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