2018 Fiscal Year Annual Research Report
複雑な世界における概要認知のメカニズム:発達と進化的基盤
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18H03506
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
伊村 知子 日本女子大学, 人間社会学部, 准教授 (00552423)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
友永 雅己 京都大学, 霊長類研究所, 教授 (70237139)
白井 述 新潟大学, 人文社会科学系, 研究教授 (50554367)
上田 祥行 京都大学, こころの未来研究センター, 特定講師 (80582494)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | アンサンブル知覚 / 表情認知 / 発達 / 進化 / 順応 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、アンサンブル知覚の基盤となるメカニズムを「発達」と「進化」の側面から解明すべく、ヒトの成人と幼児、チンパンジーを対象に単純な特徴(色や大きさなど)や複雑な特徴(表情など)のアンサンブル知覚について検討することを目的としている。 1)表情のアンサンブル知覚の発達と進化の側面について検討した。4,5歳児と成人を対象に、複数の喜び表情から平均の情動強度を知覚する能力について検討した。1枚あるいは4枚の正立顔あるいは倒立顔からなる表情刺激セットを左右に同時呈示し、より楽しそうな表情の方を選択する課題をおこなったところ、成人だけでなく4,5歳児においても複数の表情の平均を知覚できるものの、成人に比べると未熟であることが示された。チンパンジーを対象とした表情のアンサンブル知覚については、ヒト幼児と同様の手続きによる実験の準備を進めた。 2)成人を対象に、表情のアンサンブル知覚の時間的文脈の効果について検討した。色や方位といった単純な特徴だけでなく、表情についても、ある表情をしばらく見ていると、その表情への感度が鈍くなる現象(順応)が知られている。本研究では、複数人の表情を同時に呈示したところ、表情の平均への順応が生じることがわかった。また先行表情とテスト表情の表情カテゴリを変化させたところ順応が消失した。これらのことから、一人の表情を見たときの順応と同様の現象が、複数人表情の平均に対して生じていると考えられ、自動的なアンサンブル知覚メカニズムがヒトの認知を調整している可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
以下について着実な成果が得られた。1)表情のアンサンブル知覚の発達過程については、新たに4,5歳児において複数の喜びの表情の平均を知覚する可能性が示された。これまで大きさのアンサンブル知覚が4,5歳頃から発達することが示されてきたが、同様の時期に表情のアンサンブル知覚が発達するか否かについて、今後慎重に検討する必要がある。また、チンパンジーを対象としたアンサンブル知覚の実験では、準備の段階で当初の予定に反して刺激材料の問題が生じたものの、国内外の他研究機関の協力を得て実験を再開することができた。2)成人を対象に表情のアンサンブル知覚の時間的文脈の効果を検討した研究では、一人の表情を見たときの順応と同様の現象が複数の表情の統計情報を知覚することによっても生じることなど、アンサンブル知覚のメカニズムに関連した新しい現象を発見することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、得られた知見に基づき研究計画を洗練させつつ、各研究のさらなる進展を図る。1-1)表情のアンサンブル知覚の発達過程については、4,5歳児と成人で成績に違いが見られた。そこで、次年度はさらに対象年齢を広げると同時に、別の手続きでも同様の結果が得られるかどうかを検討する。1-2)チンパンジーにおける表情のアンサンブル知覚については、本年度はヒトの表情刺激を用いたが、チンパンジーの表情刺激を使用することも検討する。表情のアンサンブル知覚の検討が難しい場合は、視線や顔向きなどの社会的手がかりに変更することも想定する。また、もう一つの方向性として、チンパンジーのような霊長類以外の動物においても、大きさのような単純な特徴のアンサンブル知覚が生じるかどうかについて、他研究機関と連携を取り検討を進めていく。1-3)ここまでの現象を学術論文としてまとめて報告するとともに、統計情報と注意の関連、特にボトムアップの注意(刺激駆動的な注意)とトップダウンの注意(概念駆動的/意図的な注意)が及ぼす影響について検討を進めていく。
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