2019 Fiscal Year Annual Research Report
事前の防災対策と事後の救済・復興事業に関する時間整合性条件の検証
Project/Area Number |
18H03639
|
Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
中川 雅之 日本大学, 経済学部, 教授 (70324853)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山崎 福壽 日本大学, 経済学部, 教授 (10166655)
瀬下 博之 専修大学, 商学部, 教授 (20265937)
日引 聡 東北大学, 経済学研究科, 教授 (30218739)
浅田 義久 日本大学, 経済学部, 教授 (70299874)
有村 俊秀 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (70327865)
宅間 文夫 明海大学, 不動産学部, 准教授 (80337493)
行武 憲史 日本大学, 経済学部, 准教授 (80804690)
原野 啓 明海大学, 不動産学部, 准教授 (30848495)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 時間非整合性 / 事前対策 / 事後対策 / 行動経済学 / プロスペクト理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度までにSeshimo・Yamazaki(2018)に示されたように、被災者の事後的救済によって生じる時間非整合的行動の出現に関する政策的含意が整理された。ここから、政府が最低限の救済しか行わないというコミットや、効率的な保険制度の重要性が示唆された。 2019年度においては、これに行動経済学的な検討を加えて、上記のような政策が実施された場合に人々は予想されたような危険回避的な行動を自らとるのかを検討した。これまでの先行研究から、人々の時間割引率が驚くほど高いことが明らかになっている。またプロスペクト理論から、人々は利得方向には危険回避的に行動するものの、損失方向には危険愛好的に行動することが明らかにされている。これらのことから、仮に時間非整合性問題を解決するために、最低限の被災時救済に関する政府のコミットが行われても、効率的な保険制度が設計されたとしても、それらの政策は意図した効果を上げられない可能性が示唆される。このため、合理的な個人を前提とする上記のような政策を行うだけでなく、ナッジと呼ばれるような人々の行動の非合理性を前提としながら、危険回避行動にそっと誘導するような政策の検討が必要であろう。例えば、ハザードマップなどにより事前に災害に対して脆弱であることが、ある程度わかっている地域においては、様々な災害に対する保険加入をデフォルトとするような仕組みが考えられる。 以上のような研究実績の一部は研究代表者と分担者(山崎)との著作として2020年度に公刊される予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度までに、合理的な個人を前提とした場合の時間非整合的行動の発生とそれを回避するための政策的含意、及び必ずしも合理的でない人間を前提とした場合の政策的な含意を一定程度整理をすることができている。 また、もう一つのテーマである事前対策と事後対策に関して、Healy and Malhorta(2009)に基づき、選挙制度が及ぼす影響の実証分析のための作業もほぼ順調に進められている。さらに、このテーマに関しては、Alesina and Tabellni(2007)などから、政治的プロセスと官僚プロセスのどちらに災害政策の企画立案に関する権限配分を行った方が効率的かという示唆も得られている。 以上のように、当初予定されていた理論的整理、実証分析の作業が概ね予定どおりに進められていることと、新しい方向に沿った研究の端緒が開かれているため、「概ね順調に進展している」と評価することができよう。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究を構成する二つのユニットのうち、2020年度における時間非整合性検証ユニットの方針をまず説明する。Seshimo and Yamazaki(2018)で示された合理的個人の行動を記述するモデルによる予想と、行動経済学的知見の予想は必ずしも一致したものではない。つまり前者においては政府のコミットメントがあり、効率的な保険制度があれば時間非整合的な行動は起こりにくくなるはずである。一方行動経済学の予測はそのような環境下においても危険回避的な行動は起こりにくい。そのような異なる二つの予測を実証分析によって確認する作業に取り掛かりたい。 また、「政治(選挙)と災害」ユニットでは、Healy and Malhorta(2009)と同趣旨の実証分析を引き続き進める。さらに、Alenina and Tabellni(2007)の示唆する問題意識に基づく研究を進めるため、国際的な災害政策の制度比較を通じて、どのような権限配分が望ましいのかという研究も進めていきたい。
|
Research Products
(15 results)