2019 Fiscal Year Annual Research Report
Theory of nonlinear and nonreciprocal responses in noncentrosymmetric electronic systems
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18H03676
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
永長 直人 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (60164406)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
江澤 雅彦 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 講師 (10504805)
石塚 大晃 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (00786014)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 非平衡状態 / ベリー位相 / 非相反応答 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)時間反転対称性が破れた系の非線形非相反応答では、磁性トポロジカル絶縁体の表面状態とエッジチャンネルに由来する非相反電気伝導の理論を構築した。表面状態とエッジチャンネルの回路模型を構築し現象論的な解析を行うとともに、微視的な模型に基づき両者のトポロジカルな性質によって、大きな非相反性が生じることを明らかにした。また、マルチフェロイックロイック物質におけるフォノンの伝播が磁場と平行と反平行でその速度が異なるという現象につき、微視的模型を構築することで解析し、実験結果をほぼ完全に再現した。また、FeSeとトポロジカル絶縁体の界面に現れる2次元超伝導につき、面内磁場下で現れる非相反電気抵抗がコステリッツ・サウレス転移点で発散することを予言し、それが実験でも観測された。 (2)シフトカレントの物理的性質の研究では、強誘電半導体Sn2P2S6のシフトカレントを第一原理電子状態計算に基づいて解析し、実験とほぼ一致する結果を得た。また、層状反強磁性体CrI3につき、磁場でスイッチできるインジェクションカレントを理論的に設計した。また、マルチフェロイッス物質における電気分極の揺らぎを伴うマグノン(エレクトロマグノン)を励起することで、直流のシフトカレントが流れることを理論的に提案した。 (3)時間反転を持つ系の非線形非相反応答では、量子ラチェットモデルにおいて、電子格子相互作用による散逸に対応したスーパーオーミックな場合に対して、Keldysh法と摂動理論を用いた解析を行い、その非相反非線形易動度が温度に対してどのように振舞うかを明らかにした。また、dc極限のZenerトンネル過程における非相反性の解析理論を構築し、シフトカレントと同様のベリー接続の差によるシフトベクトルが方向によるトンネル確率の差を与えることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
(1)時間反転対称性が破れた系の非線形非相反応答では、磁性トポロジカル絶縁体の表面状態とエッジチャンネルの共存状態において、約20%にもおよぶ大きな非相反電気抵抗が発生する物理的機構を明らかにしたことは大きな進歩である。また、マルチフェロイックロイック物質におけるフォノンの非相反伝播は世界初の実験的観測であり、その物理的機構を理論的に明らかにしたことと合わせて大きなインパクトがあった。FeSeとトポロジカル絶縁体の界面2次元超伝導も予期せぬ実験的発見であったが、その対称性から予想される非相反電気抵抗の臨界現象を予言し、それが実験的に観測されたことは特筆に値する。 (2)シフトカレントの物理的性質の研究では、シフトカレントの定量的評価が第一原理電子状態計算によって可能であることを示し、物質設計への道を拓いた。また、層状反強磁性体CrI3につき、磁場で光電流のオン・オフおよびその方向を自在にスイッチできることを示したことは、応用の観点からも重要な成果である。また、マルチフェロイック物質におけるエレクトロマグノン励起に伴う直流シフトカレントの提案は、絶縁体でも非平衡状態では直流電流が流れうることを示しており、固体物理学にとって基本的な問題提起となっている。 (3)時間反転を持つ系の非線形非相反応答では、基本的な模型である量子ラチェットモデルの非相反易動度をスーパーオーミックな散逸に対して、初めて明らかにした。また固体物理の基本的な現象であるバンド間のZenerトンネル過程において、波動関数がどのような形で関与するかを明らかにするとともに、その非相反性まで明らかにしたことは特筆に値する。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)時間反転対称性が破れた系の非線形非相反応答 らせん磁性体における電流に対する非線形応答の理論を構築する。らせん磁性体における交流電流下での創発電磁場を解析し、それによって生じる電圧降下を明らかにする。この現象を非線形応答へと拡張し、さらに磁場を印加することによって生じると期待される非相反応答を明らかにする。 (2)シフトカレントの物理的性質の研究 反転対称性が破れた強誘電バンド絶縁体におけるフォノン励起に伴うシフトカレントの理論を構築し、第一原理電子状態計算を用いてシフトカレントの大きさを評価する。BaTiO3の電子状態とフォノンの分散の第一原理計算計算を行い、電子格子相互作用を求め、ダイアグラム法による解析的な表式に代入して、フォノンのシフトカレントを計算し、実験との比較を行う。さらに、アンダーソン局在のシフトカレントへの影響を、1次元の簡単な模型に対して数値的に調べる。光励起を局所的に行った場合と、試料全体に行った場合の両者につき、局在長とシフトカレントの大きさの関係を明らかにする。 (3)時間反転を持つ系の非線形非相反応答 超伝導のジョセフソン接合において電子相関に対応するチャージングエネルギーの非対称性が、電流・電圧特性にどのような非相反性をもたらすかを、電荷とジョセフソン位相の連立方程式を解析することで明らかにする。さらに、その考察を量子力学的なトンネル効果に拡張し、低温領域における電流・電圧特性とその非相反性の理論を構築する。現実的なパラメーターを用いて、非相反性の大きさを評価し、実験による検出可能性を評価する。
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Research Products
(20 results)