2019 Fiscal Year Annual Research Report
ベクトル電場波形整形パルスを用いた実時間動的キラル構造制御
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18H03677
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
三沢 和彦 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80251396)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小原 祐樹 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10752032)
伊藤 宙陛 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 特任助教 (60724127)
伊藤 輝将 東京農工大学, 学内共同利用施設等, 特任講師 (60783371)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ベクトル波形整形 / 結晶キラリティー / 分子キラリティー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、キラル電場波形パルスを物質に照射した際に、物質のキラリティーに依存した光学応答が観測されるか、さらには、物質のキラリティーが動的に誘起できるかの検証実験を行う。2019年度の当初計画は、「キラル電場波形パルス照射による結晶キラリティーの実験的観測」および「テラヘルツ帯任意偏光パルス照射による結晶キラリティーの実験的観測」であったが、開発したベクトル波形整形装置を励起光源とした、テラヘルツ周波数領域における動的キラリティーの観測実験に適した対象を探索した結果、半導体量子井戸構造中の伝導電子のスピン操作が最初の応用例として候補に挙がった。 そこで、 開発済みのベクトル波形整形器を用いて、 n型GaAs/Al0.3Ga0.7As変調ドープ量子井戸内でキラリティーに依存する光電流方向のスイッチングを実証した。THz領域における偏光回転周波数を有する右及び左偏光ねじれパルスを変調ドープ量子井戸に照射すると、偏光ねじれパルスの回転方向に依存して励起されるスピンの向きが選択され、その結果として、二次元面内でのキャリア輸送の方向が制御された。観測された光電圧の符号は、入射光電場によって加速された自由電子に起因する古典的なエッジ光電流と円偏光光ガルバノ効果との組み合わせにより説明できた。今回観測に成功した、入射光電場の回転方向によって自由電子が加速される向きが切り替えられるという現象は、電子を原子に置き換えて考えれば、本研究課題の当初の目的である実時間動的キラル構造制御につながる意義のある成果と言える。 当初計画の分子キラリティー誘起の実験的検証に向けて、対象となる軸性キラル分子およびらせん分子の選定を開始した。昨年度に時間分解円二色性分光装置の動作検証に用いたプロペラ型のルテニウム錯体分子についても、キラリティ制御に関する実験条件の検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
結晶内における原子核の古典的な運動を、二次元面内における電子の古典的な運動に置き換えれば、今年度の成果は、「キラル電場波形パルスを物質に照射した際に、物質のキラリティーに依存した光学応答が観測されるか」という本研究課題の本来の目的を達したことを意味する。このことから、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
「キラル電場波形パルス照射による分子キラリティー誘起の実験的検証」および「テラヘルツ帯任意偏光パルス照射による分子キラリティー誘起の検討」に基づき、キラリティーのある光電場照射下での物質の動的なキラル構造変化に関わる基礎学理を確立することを目指す。生体関連分子あるいは固体結晶といった物質系によらず、キラリティーを誘起あるいは反転させるための外場としての「ベクトル電場波形整形パルス」を自由に操作するという観点から、量子エレクロニクスと分子科学及び物性物理学領域 とを繋ぐ新しい概念を実験的に提示することを目標とする。
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