2018 Fiscal Year Annual Research Report
磁気構造のトポロジー・対称性に由来した新しいマグノン・熱輸送現象の開拓
Project/Area Number |
18H03685
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
関 真一郎 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, ユニットリーダー (70598599)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | スピントロニクス / マグノン / スキルミオン / トポロジー |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度にあたる本年度は、トポロジカルな磁気構造(スキルミオン)に由来したマグノンの非相反伝搬現象の観測を試みた。スキルミオンは、時間反転対称性と空間反転対称性が同時に破れた磁気構造を伴っており、波数kに対して非対称な(偶関数では無い)マグノン分散を示すことが期待される。このことは、順方向(波数+k)と逆方向(波数-k)に伝搬するマグノンが、異なる固有振動数・群速度を持つことを意味する。 上記の予測を確かめるため、キラル絶縁体Cu2OSeO3のスキルミオン相におけるスピン励起の伝搬特性を、スピン波分光法と呼ばれる実験手法で評価した。Cu2OSeO3のようなキラル物質のバルク結晶中では、スキルミオンが紐状に積層したスキルミオンストリングと呼ばれる3次元構造が安定となる。本実験の結果、スキルミオンストリング上の励起が非相反な伝搬特性を示すこと、またその非相反性が励起モードの特徴に大きく依存することを発見した。さらに、スキルミオンストリングに対する分散関係を理論的に計算することにより、こうした振る舞いが非常に良く再現できることも明らかになった。スキルミオンストリング上の励起は、紐の直径の1000倍以上の距離にわたる伝搬長を備えていることもわかっており、上記の特徴はスキルミオンストリングを、指向性を持った情報伝送媒体として活用できる可能性を示唆している。 この他、磁性金属の新物質開拓と中性子散乱による磁気構造の解明を通じて、トポロジカルな特徴を持った磁気渦を生成するための、遍歴電子に由来した新しい機構を発見することにも成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では、特に系のトポロジー・対称性がマグノンの伝搬特性に与える影響に注目し、トポロジカルな磁気秩序の下での発現が予言されている(1)マグノンの非相反伝搬(ダイオード効果)、(2)マグノンのホール効果、の2つの現象を取り上げ、その実験的な観測と、現象の巨大化に向けた一般的な指針の確立を目指している。 初年度にあたる本年度は、トポロジカルな磁気構造(スキルミオン)に由来したマグノンの非相反伝搬現象の観測を試みた。実際に、スキルミオンを伴うキラル絶縁体Cu2OSeO3中のマグノンの伝搬特性をスピン波分光法と呼ばれる実験手法で評価することにより、期待通りマグノンの伝搬特性のダイオード効果を観測することに成功した。さらに、スキルミオン相におけるマグノンの分散関係を理論的に計算することにより、こうした振る舞いが非常に良く再現できることも明らかになった。 この他、磁性金属の新物質開拓と中性子散乱による磁気構造の解明を通じて、トポロジカルな特徴を持った磁気渦を生成するための、遍歴電子に由来した新しい機構を発見することにも成功しており、期待以上に研究が進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目にあたる本年度は、トポロジカルな磁気構造(スキルミオン)に由来したマグノンのホール効果の観測を試みる。トポロジカルな磁気構造の下では、マグノンは量子ベリー位相に由来した創発磁場を感じることによって、その進行方向が横に曲げられることが理論的に予測されている(トポロジカルマグノンホール効果)。この際、スキルミオン相におけるマグノンのホール角は、マグノンの波数がスキルミオンの直径とほぼ一致する際に最も大きくなるとされており、そのマグノンホール角は最大で数十度にも達するとされる。上記の現象を実験的に検証するため、まず集束イオンビーム加工法を用いて十字型ないしL字型に整形した微小なCu2OSeO3単結晶試料を用意した上で、各試料端にマイクロ波の導入・検出用のコプレナーウェーブガイドをリソグラフィ法を用いて作成する。これらをプローブステーションに設置して着針した上で、各端子間のマグノンの伝播特性をネットワークアナライザを用いたスピン波分光法によって解析し、マグノンの伝導度の縦成分と横成分の系統的な分光計測を行う。こうしたアプローチを用いることで、理論的に予測されるマグノンホール効果の実験的な検出と、その磁気構造・波数・温度・磁場依存性の詳細を明らかにしたい。
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Research Products
(17 results)