2020 Fiscal Year Annual Research Report
超高品質ヘテロエピタキシャル技術による革新的高効率スピン流制御
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18H03860
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大矢 忍 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (20401143)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 酸化物 / エピタキシャル / 半導体 / 強磁性 / スピン流 / トランジスタ |
Outline of Annual Research Achievements |
オールエピタキシャル強磁性半導体GaMnAsを用いてスピン流電流変換の研究を進めており、昨年度の研究で、GaMnAs単膜に電流を流すだけで、10^5A/cm^2台の極めて小さな電流密度で磁化を反転できることを明らかにしていた[Nature Commun. (2019)] 今年度は、さらにGaMnAsの膜厚を変えた一連の試料で同様の測定を行ったところ、膜厚が15nmの時に、スピントルク磁化反転現象においては世界最小である4.6x10^4 A/cm^2で磁化を反転できることが明らかになった。本成果はNature Electronics (2020)に掲載された。 大阪大学の浜屋研究室と共同で、オールエピタキシャルCoFeAlSi/Geヘテロ構造におけるスピン流電流変換の研究を行った。本試料に対してアニールを行いGeの拡散を促進したところ、スピンホール角が増大するという予期していなかった現象が明らかになった。本系のように、スピンホール効果がスピン流電流変換において支配的な系においては、ある程度の結晶の乱れの存在が、変換効率の増大させる可能性があることが明らかになった[Phys. Rev. Applied.(2020)]。 一方、昨年、研究計画では予定していなかったが、SrTiO3表面上で、酸化物の中では最高の正孔移動度24000 cm2/Vsをもつ高移動度P型2次元伝導を観測することに成功した[Adv. Mater. (2020).]。酸化物では難しかったP型伝導が容易に実現できるようになり、酸化物エレクトロニクスの新たな可能性を開拓することができた。今年度は、PN接合やNPNトンネルトランジスタの実現に成功し、特にFETにおいて、10^8の大きな電流変調比と38mV/decの極めて急峻なスイッチング特性を3Kの低温において得ることに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
オールエピタキシャル単結晶酸化物2次元系や強磁性半導体を用いたスピン流電流変換に関する機能性の実現が着実に進んできており、現時点で、世界最小の電流密度での磁化反転に成功している[Nature Commun. (2019), Nature Electronics (2020)]。さらに、従来予期されていなかった高移動度2次元正孔ガスがSrTiO3表面で世界で初めて観測された [Adv. Mater. (2020)]。従来、二次元正孔ガスはSrTiO3表面上では実現が困難だとされてきており、本結果は重要な意味をもつと考えている。さらにPN接合やNPNトランジスタなどを世界で初めて酸化物で実現できた(論文査読中)。本系は、新たな酸化物エレクトロニクス分野を開拓できる可能性をもっているだけでなく、新たなスピン流電流変換の舞台としても期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年に観測されたLSMO/LAO/STOヘテロ構造における大きな内因性の逆エデルシュタイン効果については、現在さらに大きな現象が得られるような新たな材料系を探索している。実際に、巨大な逆エデルシュタイン効果が得られるペロブスカイト酸化物物質が存在することがわかってきた。次年度は、この現象の原因解明を進めていきたい。さらにゲート変調実験なども進めていきたい。強磁性半導体では世界最小の電流密度での磁化反転に成功しているが、ゲート変調の実験なども進め、メカニズムの解明を進めたい。 縦型スピントランジスタ構造に関しては、ペロブスカイト酸化物等を用いて、電界制御がある程度できるようになってきたため、さらにこの方向で研究を進めていきたい。成果の論文化も進める予定である。本プロジェクトにおいて発見された、フェルミレベルに依存して変わる電子の軌道の違いを利用することにより得られた極低消費電力磁化回転現象も、積極的に利用し、新たなデバイスの実現につながる方向性を探索していきたい。今年度、酸化物で実現に成功したPN接合やNPNトランジスタは、様々な新しいデバイスに応用できると考えられる。デバイス開拓を進めるとともに、これらの電子構造を理解すべく理論計算やバンド構造探索なども進めていきたい。
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