2019 Fiscal Year Annual Research Report
音波を用いたスピン流の高効率生成と伝導制御に関する研究
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18H03867
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
能崎 幸雄 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (30304760)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
前川 禎通 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 上級研究員 (60005973)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | スピン流 / スピン渦度結合 / 表面弾性波 / スピン波 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、表面弾性波により生成した交流スピン流の直流スピン流への変換と、表面弾性波による直流スピン起電力の生成(スピンバッテリー動作)の実験検証を行い、以下の成果を得た。 (1)渦度の強度と極性が空間・時間変化する表面弾性波を用いて、ありふれた金属に交流スピン流を生成できることを既に世界に先駆けて実証した。一方、磁気メモリの情報書き込みで重要な磁気ビットの磁化反転には直流スピン流が必須であり、前記の交流スピン流を用いて直流スピン流を生成できれば、われわれ独自のスピン流生成手法の実デバイス応用に大きく近づく。そこで、スピンポンピング効果を利用したスピン整流に着目し、表面弾性波が生成した交流スピン流の直流スピン流への変換を検証した。まず、表面弾性波の導波路デバイスにCu / NiFe / Pt3層膜を作製した。この3層膜に表面弾性波を注入したところ、直流スピン流の発生を示唆する直流電圧を確認した。これは、交流スピン流がNiFe膜にスピン波共鳴を誘引し、スピンポンピング効果によって直流スピン流が生成されたことを示している。さらに、交流スピン流の強度が表面弾性波の周波数の4乗に比例する極めて大きな非線形性も発見した。 (2)表面弾性波によるスピン起電力生成の実証実験を行った。まず、表面弾性波を強磁性薄膜に注入した際に発生するスピン波共鳴信号の薄膜サイズ依存性を測定し、強磁性薄膜の任意の領域に局所的にスピン波を励起できる条件を調べた。次に、スピン波が励起されている箇所とされていない箇所に電極を設け、外部磁場強度と印加角度を変化させながら、電極間に発生する起電力を測定した。その結果、スピン波が共鳴的に励起される磁場条件にて、大きな起電力が発生することを確かめた。測定した起電力は、磁性薄膜のスピン偏極率から理論計算により予想された値と同程度であり、表面弾性波によるスピン起電力生成に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では、環境負荷の低い物質を高性能なスピントロニクス材料とするため、全く新しい原理に基づくスピン流生成機構の基礎物理解明を目指している。表面弾性波のスピン渦度結合を利用して直流スピン流を生成することに成功した本年度の研究成果は、電圧によるスピン流生成の道を切り拓くだけでなく、高周波化によるスピン流強度の増大など、従来型デバイスでは不可能なスピン流制御を可能にする重要な成果である。さらに、表面弾性波によるスピン起電力生成に関する成果は、スピンデバイス内の任意の強磁性金属素子への起電力の供給を可能にするものであり、本研究プロジェクトの最大の目的であるスピンデバイスの高性能・高機能化につながる技術革新である。以上は、当初の想定よりも大きな進捗である。
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Strategy for Future Research Activity |
マクロな角運動量からスピン流を生成する全く新しい原理(スピン渦度結合)の実証と物理解明を目指す本プロジェクトにおいて、最後に残っている課題が半導体へのスピン流生成である。本研究では、これまでの研究で確立したスピントランスファートルクによる強磁性薄膜へのスピン波共鳴励起を用いたスピン流検出法により、半導体へのスピン流生成を実証する。そこで、コンダクタンスミスマッチ効果によるスピントランスファートルクの減少を避けるため、半導体と電気伝導度の差が少ない強磁性体(例えばイットリウム鉄ガーネットなど)を用いた実験を行う。さらに、金属と半導体でのスピン流生成特性の比較より、スピン渦度結合の基礎物理を明らかにする。
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