2019 Fiscal Year Annual Research Report
局在性と非局在性の拮抗を解き明かす金属クラスターの電子論開拓
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18H03901
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
寺嵜 亨 九州大学, 理学研究院, 教授 (60222147)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
安池 智一 放送大学, 教養学部, 教授 (10419856)
堀尾 琢哉 九州大学, 理学研究院, 准教授 (40443022)
荒川 雅 九州大学, 理学研究院, 助教 (10610264)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 金属クラスター / 電子構造 / 電子励起 / 電子局在/非局在 / s-d電子相互作用 / 表面プラズモン共鳴 |
Outline of Annual Research Achievements |
電子励起の集団性について、銀クラスター正イオンの光解離分光を、新たに2から20量体まで行い、前年までの測定と合わせて70量体までをほぼ完了した。20量体以下では吸収線の数や波長がサイズごとに大きく変化するのに対して、大きなサイズでは吸収が特定の波長に次第に集中する特徴が明らかとなった。また、サイズの増加とともに多光子過程が顕著となり、17, 18量体で一光子過程と二光子過程が競合することを見出した。大きなサイズでは光閉じ込め分光を行って吸収断面積を実測し、一光子スペクトルに焼き直す作業を行った。理論解析では、対称性のよい55量体(正二十面体構造)のスペクトルを計算し、実験結果と比較した。実測を概ね再現する結果を得たが、一層の精度向上を目指している。さらに、100量体までの実験を目標に大きなクラスターの生成法を検討した。具体的には、クラスターの成長過程を発光分析法で調べ、発生する銀原子量とサイズ分布との関係を解析し、その成果を論文発表した。 一方、s-d電子相互作用に関しては、3d遷移金属原子(Sc~Ni)を添加した銀クラスターを対象に、前年度までの正イオン種に加え、本年度は負イオン種について反応性評価の網羅的な実験を行った。その結果、正イオンではSc, Ti, V, Fe, Co, Niを添加した場合に、負イオンではSc, Ti, Vの場合に、価電子数18個のサイズでs-d混成が顕著になり、非局在化した3d電子も寄与して18電子閉殻構造を形成することが見出された。今後さらに電子構造を定量的に解析するために負イオン光電子分光を新たに計画し、装置設計を行って製作を開始した。また、飛行時間型質量分析計の検出感度を上げるために、独自の設計で新たなリフレクトロンを開発した。正イオンの一連の反応性およびリフレクトロンの開発について、論文発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
銀クラスター正イオンの分光実験が順調に進んでおり、当初の目標よりも大きな100量体までを狙える状況になっている。また、遷移金属原子を添加した銀クラスターについて、予定した正イオン種、負イオン種の反応性測定を既に終え、負イオン光電子分光の装置開発に着手するなど、予定を超えた研究が進んでいる。以上のように、当初の計画よりも大きく進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
電子励起の集団性に関しては、今後、測定を100量体まで進め、クラスターの形状とスペクトルの構造との相関を追究する。続いて、吸収断面積を決定できる光閉じ込め分光を未測定サイズに広げ、吸収スペクトルの定量化をさらに進める。また、従来の室温実験を液体窒素温度の低温へ進め、スペクトル幅の起源を突き止めるなど、集団性の議論をさらに補強したい。理論解析では、吸収に関与する素励起の数を示す集団性指標(collectivity index)の評価を広いサイズに展開し、実験と理論を統合して電子集団励起の発現機構の解明を目指す。 一方、s-d電子相互作用について、今後、既に設計を終えた負イオン光電子分光装置を製作し、電子構造の分光実験に取り組む。とりわけSc添加種では、18電子系Ag14Sc-の反応性が著しく低く安定種であることが実験から示唆され、量子化学計算でも超原子軌道(1S, 1P, 1D)の形成が示唆されている。そこで、これらSc添加種に特に注目し、光電子分光でこの電子構造を実証したい。さらに、銀よりも強いs-d相互作用が予想されるアルミニウムをホスト金属として、強い局在性が示唆されたCr, Mn添加種について、3d電子が非局在化するか否かの問題に取り組む。
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Research Products
(22 results)