2019 Fiscal Year Annual Research Report
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18H03940
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
柳澤 修一 東京大学, 生物生産工学研究センター, 教授 (20222359)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 植物 / 窒素 / 栄養応答 / 栄養シグナル / 転写因子 / 遺伝子発現制御 / 転写カスケード / 窒素代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでに、NLP転写活性化因子が直接制御する新規遺伝子としてアスパラギン酸オキシダーゼ(AO)遺伝子を同定した。AOはNADH合成経路の鍵酵素であるので、シロイヌナズナのAO欠損株で、NLP結合部位に点変異を導入した変異型AOプロモーターと野生型AOプロモーターを用いて野生型AO 遺伝子を発現することで、NLP転写因子によるAO遺伝子の発現促進の生理的意義の解明を行った。作出した形質転換体を用いて、窒素栄養環境を変化させた時のNAP(P)含量変化を分析するとともに、種々の有機酸やアミノ酸などをCE-MSを用いて分析し、硝酸シグナルによるAO遺伝子の発現促進は、硝酸イオンの還元に必要となるNADH含量を上昇させるためではなく、TCA回路を維持するために重要であることを明らかにした。また、AO遺伝子の発現が硝酸シグナル応答性を失っても、組織量あたりのNAD(P)H含量はほぼ一定に維持されるが、成長量が大幅に低下することを明らかにし、NAD(P)Hの総合成量に合わせて成長量が決定されることを示した。これによって、硝酸シグナルが、窒素同化に直接関わる遺伝子だけでなく種々の代謝酵素遺伝子の発現を同調的に制御することが、植物の成長量の最適化に必要であることを明らかにした。一方で、NLP転写因子によって発現が促進される遺伝子の産物であるNIGT1転写抑制因子が、リン飢餓応答を引き起こす転写活性化因子PHR1の抑制因子であるSPXタンパク質をコードする遺伝子の発現を抑制していることを明らかにし、硝酸シグナルがリン飢餓応答を強化している可能性を示した。また、シロイヌナズナに9つ存在するNLP遺伝子の中で、NLP7に加えてNLP2も成長制御に大きな役割を持つことが明らかになったことから、nlp2変異体を用いたトランスクリプトーム解析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
主たる窒素源である硝酸イオンを感知し、遺伝子発現や代謝バランスを大きく変化させ、窒素栄養環境に合わせた成長の最適化を行う。この最適化のための応答が硝酸シグナル応答であり、硝酸シグナル伝達の分子メカニズムと意義の包括的理解を達成することが本課題の目的である。この目的に沿って、NLP転写因子の新規標的遺伝子としてAO遺伝子を同定して解析を行うことで、硝酸シグナルが、窒素同化に直接関わる遺伝子だけでなく、種々の代謝酵素遺伝子の発現を同調的に制御することが植物成長の最適化に必要であることを明らかにした。この成果は、硝酸シグナルが直接的な関係が認められない代謝酵素遺伝子の発現を促進することの意義を世界に先駆けて示したものであり、硝酸シグナルが同調的に多数の代謝経路を同調的に制御することの意義を初めて示したものである。また、一方で、硝酸シグナルがリン飢餓応答を直接、調節する経路にも迫ろうとしている。これらのことから、進捗状況は、ほぼ順調であると評価される。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究成果により、硝酸シグナルが同調的に多数の代謝経路を制御することの意義が明らかとなった。一方で、NLP転写促進因子によって直接、発現が誘導されるNIGT1転写抑制因子が窒素飢餓応答遺伝子の発現を抑制していることも明らかにしている。このことから、NLP転写促進因子を起点とした転写カスケードによって、複雑な制御が生み出されていることが考えられた。そこで、今後は、NIGT1のさらに詳細な機能解析とともにさらに、NLP転写促進因子やNIGT1転写抑制因子によって発現が直接、制御されている新たな転写因子を同定し、機能解析を進める。NLPによる直接ルートとNLP-NIGT1ルートの両方によって発現量が制御される転写因子は窒素栄養量の変動に合わせて調節される生理現象を担うことが予測され、一方、NLP-NIGT1経由ルートによってのみ発現量が制御される転写因子は窒素栄養量の少ない時の生存戦略に関わることが予測される。このような仮説に基づいた解析を進めることで、NLPを起点とした異なる転写カスケードが硝酸シグナル応答の異なる側面を制御していることを明らかにする。
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Research Products
(10 results)